ワンピ長編夢V
□巫女と蛙と水の都
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空には月。
海は穏やか。
濃い霧に包まれ、その存在を隠している島。ここはルーシェ島。神の一族であるゼウス一族の隠れ島。
今夜。
任務を終えて、この島に戻って来たレオ。
パーン!
「おかえり〜レオ!任務お疲れ様〜♪」
「…………」
「レオ…おかえり。」
クラッカーの爆発音。
中から飛び出した紙吹雪がひらひらと静かに落ちていく。
「……何のマネだ。」
「止めたんだけど…ラーズがさ…。」
「レオ!何だその無反応!せっかく盛大にお迎えしてやったのに〜。無反応は犯罪と同罪だぞ。」
「……」
「ラーズ!だからやめようって言ったんだ。」
「え?あれか?これだけじゃ足りないって?もう〜レオは欲張りさんなんだからなぁ―はははは!」
地下神殿へと続く階段を下り、広間に入った瞬間。
待ち伏せていたラーズとエアの出迎えを受けたレオ。
騒ぐラーズと不機嫌な顔を浮かべるレオ。その間で宥めるエア。ため息と一緒にレオは返事をする。
はぁ――……
「…ただいま。」
「え!…おかえり…」
「あらら?」
「何だよ。ただ挨拶しただけだろーが。」
「いつも言わない…言った事ないから。そういえば…苛々してない…?」
「お前なぁ。たかが挨拶でぐだぐだ言うな。ああ―腹減った!」
「レオ―!今日はお赤飯炊こうね…うぅ…お兄さんは嬉しいッ!」
「気持ち悪ぃ!!」
「まぁまぁ♪」
「………?…」
レオの雰囲気がいつもと違う事に気付くエア。
ラーズの冗談にも苛々せず、いつもしない挨拶まで。どうしたのかと、エアは考えを巡らせる。
「…何で…?」
《任務で何かあったのか?……何だろう……》
立ち尽くすエア。
気付いたレオが呼ぶ。
「おいエア!早く来いよ。腹減ってんだ!一緒に飯付き合えよ。」
「あ…今行くよ。」
「何だレオ。俺は誘わないのか?俺と食う飯は格別に美味いぞ?」
「うるせぇ。食いたきゃ勝手に食えばいいだろーが。ただし隅で食え。」
「酷い!」
「妥当だろーが!」
「二人とも…!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ二人に追い付き、エアは止めに入る。ようやく“いつも”の光景になり、どこか安心するエア。
雰囲気の変わったレオを見て、またそれも良しと思う事にした。三人は食堂へと向かった。
「…ああ―…」
「夜遅いからね。」
「残念。」
「何だよ―…やっぱ時間が遅かったか。チッ。」
「仕方ないよ。リッツさんもいつまでも調理場にいるわけにはいかないし。」
「よし!俺が何か作ってやるか♪二人とも座って待ってろ!」
「お前の料理―…げぇ…。なら腐った林檎食ったほうがマシ…」
「そう言うなって。せっかくだからご馳走になろう、レオ。ほらほら。」
地下神殿の食堂。
そこを任されているリッツは、もう仕事を終え部屋に帰っていた後だった。
残念がるレオを見て、ラーズが腕を振るうと言い出した。
嫌がるレオを強引に席に着かせるエア。一癖あるレオを引っ張るエアを見ると、二人の仲の良さが伺える。それを見て笑顔のラーズ。俄然やる気が出る。
「おいエア。あいつ、料理出来んのかよ?」
「レオ食べた事なかったか。ああ見えてラーズは料理上手なんだ。僕は何回か食べさせて貰ったよ。」
「は―ん…。」
「美味しいよ。」
「そうか。」
「……」
料理の腕前を探るレオ。
信頼するエアの太鼓判を聞き、まずまずな顔をする。エアはラーズがいない間に、先程気になった事をレオに聞いた。
「レオ。あのさ。」
「ああ?」
「任務中…に何かあったのか?」
「…何だよ。」
「何かさ…いつもと違う感じがして。優しいって言うか…あ!レオが優しくないとかそういう事じゃなくてさ…!」
「……へぇ―。“いつもと違う”か。ははッ!」
「悪い意味じゃないんだ。少し気になって。何もないならそれでいい。」
「―……」
エアは笑う。
さすがと言うべきか。
自分の心境の変化を見抜いた親友を前に、頬杖をつき悪態を見せる。
照れ隠しだろうか。
「エア。知ってるか?」
「何?」
「空には真っ白な海があって、島もあるんだぜ。」
「空に海?まさか…」
「それでな。背中に天使の羽を背負った奴らが住んでるんだ。島には面白い貝類があって、その島は雲で出来てるんだぜ。」
「レオ…嘘だろ?空に島や海があるわけない。」
「エア。世界は広いんだ。有り得ないとか…出来ないとか…そんな次元じゃねぇんだよな。」
「…!」
「もっと世界に目を向ければ…変わってただろうな。俺等一族は。」
「…!……」
レオが言う話に、まったくぴんと来ないエア。
だが。最後の言葉だけは何故か胸に刺さった。