ワンピ長編夢V

□巫女と蛙と水の都
1ページ/19ページ






空には月。
海は穏やか。
濃い霧に包まれ、その存在を隠している島。ここはルーシェ島。神の一族であるゼウス一族の隠れ島。

今夜。
任務を終えて、この島に戻って来たレオ。





   パーン!

「おかえり〜レオ!任務お疲れ様〜♪」

「…………」
「レオ…おかえり。」



クラッカーの爆発音。
中から飛び出した紙吹雪がひらひらと静かに落ちていく。



「……何のマネだ。」
「止めたんだけど…ラーズがさ…。」

「レオ!何だその無反応!せっかく盛大にお迎えしてやったのに〜。無反応は犯罪と同罪だぞ。」


「……」
「ラーズ!だからやめようって言ったんだ。」

「え?あれか?これだけじゃ足りないって?もう〜レオは欲張りさんなんだからなぁ―はははは!」




地下神殿へと続く階段を下り、広間に入った瞬間。
待ち伏せていたラーズとエアの出迎えを受けたレオ。

騒ぐラーズと不機嫌な顔を浮かべるレオ。その間で宥めるエア。ため息と一緒にレオは返事をする。




  はぁ――……

「…ただいま。」

「え!…おかえり…」
「あらら?」


「何だよ。ただ挨拶しただけだろーが。」

「いつも言わない…言った事ないから。そういえば…苛々してない…?」


「お前なぁ。たかが挨拶でぐだぐだ言うな。ああ―腹減った!」

「レオ―!今日はお赤飯炊こうね…うぅ…お兄さんは嬉しいッ!」

「気持ち悪ぃ!!」
「まぁまぁ♪」


「………?…」




レオの雰囲気がいつもと違う事に気付くエア。
ラーズの冗談にも苛々せず、いつもしない挨拶まで。どうしたのかと、エアは考えを巡らせる。




「…何で…?」

《任務で何かあったのか?……何だろう……》




立ち尽くすエア。
気付いたレオが呼ぶ。




「おいエア!早く来いよ。腹減ってんだ!一緒に飯付き合えよ。」

「あ…今行くよ。」


「何だレオ。俺は誘わないのか?俺と食う飯は格別に美味いぞ?」

「うるせぇ。食いたきゃ勝手に食えばいいだろーが。ただし隅で食え。」

「酷い!」
「妥当だろーが!」
「二人とも…!」




ぎゃあぎゃあ騒ぐ二人に追い付き、エアは止めに入る。ようやく“いつも”の光景になり、どこか安心するエア。
雰囲気の変わったレオを見て、またそれも良しと思う事にした。三人は食堂へと向かった。





「…ああ―…」
「夜遅いからね。」
「残念。」


「何だよ―…やっぱ時間が遅かったか。チッ。」

「仕方ないよ。リッツさんもいつまでも調理場にいるわけにはいかないし。」

「よし!俺が何か作ってやるか♪二人とも座って待ってろ!」


「お前の料理―…げぇ…。なら腐った林檎食ったほうがマシ…」

「そう言うなって。せっかくだからご馳走になろう、レオ。ほらほら。」





地下神殿の食堂。
そこを任されているリッツは、もう仕事を終え部屋に帰っていた後だった。
残念がるレオを見て、ラーズが腕を振るうと言い出した。

嫌がるレオを強引に席に着かせるエア。一癖あるレオを引っ張るエアを見ると、二人の仲の良さが伺える。それを見て笑顔のラーズ。俄然やる気が出る。





「おいエア。あいつ、料理出来んのかよ?」

「レオ食べた事なかったか。ああ見えてラーズは料理上手なんだ。僕は何回か食べさせて貰ったよ。」


「は―ん…。」
「美味しいよ。」

「そうか。」
「……」



料理の腕前を探るレオ。
信頼するエアの太鼓判を聞き、まずまずな顔をする。エアはラーズがいない間に、先程気になった事をレオに聞いた。



「レオ。あのさ。」
「ああ?」

「任務中…に何かあったのか?」
「…何だよ。」


「何かさ…いつもと違う感じがして。優しいって言うか…あ!レオが優しくないとかそういう事じゃなくてさ…!」

「……へぇ―。“いつもと違う”か。ははッ!」


「悪い意味じゃないんだ。少し気になって。何もないならそれでいい。」

「―……」




エアは笑う。
さすがと言うべきか。
自分の心境の変化を見抜いた親友を前に、頬杖をつき悪態を見せる。
照れ隠しだろうか。




「エア。知ってるか?」
「何?」

「空には真っ白な海があって、島もあるんだぜ。」

「空に海?まさか…」


「それでな。背中に天使の羽を背負った奴らが住んでるんだ。島には面白い貝類があって、その島は雲で出来てるんだぜ。」

「レオ…嘘だろ?空に島や海があるわけない。」


「エア。世界は広いんだ。有り得ないとか…出来ないとか…そんな次元じゃねぇんだよな。」

「…!」


「もっと世界に目を向ければ…変わってただろうな。俺等一族は。」

「…!……」




レオが言う話に、まったくぴんと来ないエア。
だが。最後の言葉だけは何故か胸に刺さった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ