□新しい明日
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悩んだすえに、とりあえず散歩でもしようと木ノ宮の家をあとにした。
俺が歩きだすと当然のようにマックスも一緒に歩きだし、ちょこちょこと離れないように後をついてくる。
何故、自分がどこの猫とも知れない子供の面倒など見なくてはならないのだ。
苛立ちを抑えながらも黙々と歩いていると走りながら追いついてきたマックスが声を掛けてきた。

「ねぇ、どこに行くノ?」

自分が迷子だというのを忘れているのか随分と楽しそうな声で話しかけてくる。
ただの暇つぶしの散歩なので当てなどない、なにより答える気などないのでそのまま無視した。
好奇心が旺盛なのか無視しても何度も話しかけてくる。
これだけ元気なら、そのうち飽きてどこかに行くだろうと思ったが…
塀の上にのぼっても垣根の下をくぐっても、狭い路地に入ろうともマックスはついてきた。
わざと歩調を速めて置いて行こうとしても、まだ短い足を懸命に動かし走ってでも追いついてこようとする。
飽きるどころかますます楽しそうに自分の後をついてくる
根性があるというか、しつこいというか……
自分達を見る人間からは可愛いとか親子などといわれ、ハッキリいって不愉快きわまりない。
数時間ほど歩き続けそろそろ飽きてきたので、いつものお気に入りの場所へと向かう。
マックスもつれて行く事になるが仕方がない、今はなによりも休息を優先させた。

小さな川が流れる川原、無駄に長い草が覆い茂るその場所に放置された小さなソファ、そこが今のお気に入りの場所。
周りには他にもテレビや棚、テーブルや自転車などいろいろな物が放置されていた。
ここはいわゆる不法投棄の場所、注意の看板は立っているものの何の意味もない。
だが、こちらとしては冷たい地面に寝なくてすむので一応感謝はしている。
現在の指定地であるソファの上に寝転ぶ、人も車も通らない静かな場所、太陽の日差しが身体を心から温かくしてくれる。
ぬくぬくと昼寝には最高の場所、眠る準備はバッチリ……なのだが…

「………………」
「ニャッ!にゃ、にゃぁ―!!」

ゆらゆらと揺れる白い尾にじゃれ付いて遊んでいる子猫が一匹。
うるさい……しかも勝手に尻尾を玩具にするな。
マックスがじゃれているのはレイの尻尾、あれだけ歩いて何故まだ元気なのか。
遊び盛りなのは分かるが、頼むからいまは大人しく寝てくれ。
暫くすれば飽きるかと思ったが、先程と同じで飽きる気配はまったくない。
放っておいてそのまま眠るつもりではいたが、うるさくて眠れない。

「ニャアァ―!」
「…いい加減にしろ」

後からマックスの首をくわえて持ち上げる。
突然の事に驚いたようだが、持ち上げている間マックスは身体を丸くして大人しくしていた。
そして自分の傍で降ろし動くなという意味を込めて前足を頭の上に置いた。

「大人しく寝ろ」
「でも僕、眠くないネ」
「それでも寝るんだ」

きょとんと青い大きな瞳が自分を見つめる。
最初に見たときも思ったがやはりマックスの瞳は綺麗だ。
色素の薄い茶色の毛は光に当たると金色にひかり、飼い猫の証である青い首輪の鈴が小さな音を奏でる。
ふわふわと柔らかく汚れのない綺麗な黄金色、随分と大事にされていたのがよく分かる。

「お前、怖くないのか?」
「お前じゃないよ、僕はマックスネ!」
「…マックス、不安じゃないのか?」
「ふあん?」

意味が分からないのか、首を傾げて不思議そうな顔をした。
親とはぐれ見知らぬ場所にいれば普通怖がったり不安になったりするはず、もっともマックスの話によるとママというのは人間(飼い主)の事らしい。

「ママと離れて寂しくないのか?お前一匹だけなんだぞ。」
「いっぴき?」

暫く考え込んだ様子だったが、すぐにフルフルと首を横に振る。
案外、根性のある奴だと思ったがマックスの意外な言葉に唖然とした。

「レイが一緒にいるから楽しいネ!!」

一瞬、何をいっているのか理解できなかった。
楽しい?昨日、出会ったばかりの見知らぬ相手といて?
混乱するレイの様子など知りもせず、マックスは甘えるようにスリスリと身体を寄せてくる。

「ママの代わりにレイが傍にいてくれるから大丈夫だヨ!」

まったく警戒心のない様子に驚きを通り越して呆れてしまう、こうゆうのを無邪気というのだろう。
さっきまで自分を無視し、追い払おうと考えていた者にどうしてこうも懐いてくるのか。
マックスを見る限り自分が迷惑がられていたとは思っていないようだ。
試しに向こうへ追い払うように前足で押しやるとコロリ後方へ転がる。
なにが起こったのか分からず、きょとんとしていたが嬉しそうに笑ってすぐにまた寄ってくる。
どうやら今まで遊んでもらっていると勘違いしているようだ。
それを知ってレイは呆れの溜息をついた。

「あのね僕、レイの事が大好きネ!!」
「……はぁ?」
「だから、ずっとずっと一緒に遊ぼうネ!!」

子猫の相手など疲れるだけでなんにも楽しくない、子守など二度とやりたくない。
そう思っているのに、何故か拒否の言葉が出てこない。
むしろ笑顔でそういってくるマックスに、しょうがないなぁという諦めのような事を思っていた。
いや、諦めというより自分はマックスを受け入れている。
自分の思考に愕然としていると小さな寝息が聞こえてきる。
チラリと視線をさげればマックスが自分に寄り添って眠っていた。
さっきまで眠くないといっていたのはどこのだれだ。
気持ち良さそうに眠っているマックスをジッと眺める。
それほど子供好きではないのだが、どうもマックスといると調子が狂う。
自分はこんなにも面倒見がよかっただろうかと疑問にさえ思った。
しかし、ずっと一緒に……それも悪くないかもしれない。
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