□意地悪な彼
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「……イ…レイ!」

自分の名を呼ぶ声にゆっくりと瞼を上げる。
まだぼんやりとする視界にキラキラと輝く金の髪が映った。
同時に自分を見つめる青い瞳と視線が合わさる。

「…マックス?」
「hello!こんな所で寝てると風邪ひくヨ。」

レイが寝ていたのは公園にいくつもあるベンチの一つ。
そこはあまり人目にもつかず今の時間は丁度、木陰になっている。
太陽の日差しが強い今日にとって此処は絶好の場所だ。

「大丈夫だ。それに今日は暑いから、これくらいが丁度いい。」
「でも外で寝るのはあまり良くないネ。」

真上から覗き込んでいるマックスの表情がにわかに曇る。
それで自分を心配しているという事がよくわかった。
そんなマックスをよそにレイは上体を起こすとベンチの端を軽く叩いた。

「マックス、此処に座ってみろ。」
「what?なんで?」

レイは問い掛けには答えず、ベンチの端を叩き座るよう促す。
不思議に思いながらも促されるままマックスはベンチに座り、それを確認してからレイはまたベンチに寝転ぶ。
ただ、今度はマックスの膝に自分の頭を乗せた。

「レイ!?」
「ん、丁度いい。」
「よくナイ!誰かに見られたらどうするノ!?」

恥ずかしさで顔を真っ赤に染め、見られていないか辺りを見渡す。
幸にも近くに人の姿は見えない。
マックスは安堵するとレイの額を軽く叩いた。

「いい加減、起きてヨ。」
「今、寝たばかりだから無理だ。」
「さっきまで寝てたジャン。」
「さっきはさっき、今は今。」

何がなんでも寝ようとするレイに、もはや呆れの溜息しか出ない。
マックスの深い溜息で自分が呆れられているという事はわかった。
だが、レイは気にした様子もなく瞳を閉じ続けている。
それでも耳から入ってくるマックスの声はずっと聞いていた。
困った声に呆れの声も溜息も今のレイにとっては最高の子守唄だった。

「だいたいレイは寝過ぎだヨ!夜にちゃんと寝なきゃ駄目ネ!!」
「………」
「そのうち寝太りしても知らないカラ!」
「………」
「ネェ、聞いてル!…もしかして寝ちゃっタ?」
「いや、起きてる。」

そう答えるとレイはまた上体を起こした。

「どうしたノ?もしかして起きル?」
「ハズレ。ちょっと忘れたと思って。」
「忘れた?って何を…ッ!?」

疑問に思った瞬間、マックスの思考は停止した。
僅かな息苦しさと唇に感じる柔らかな感触。
そして目の前にはレイの顔。
突然のキスに指一本、動かす事が出来ない。
数秒の出来事だったが驚きのあまりマックスは呆然と固まっていた。

「おやすみ、マックス。」

そういって意地の悪い笑みを浮かべ、またマックスの膝に頭を乗せる。
瞳を閉じて今度は、そう経たないうちに眠りについた。
強い光を遮る心地よい木陰の中、穏やかな寝息が聞こえだす。
それでもマックスはいまだに固まって身動きすら出来ないでいた。


困らせたくない、心配させたくない…悲しませるなんて、もってのほか。

でも時々、君のそんな表情が見たくて、声を聴いてみたい。

誰かのせいで困ってるんじゃない、誰かの心配しているんじゃない。

俺のせいで困っている君、俺の心配をしている君…


そんな俺のためだけの君の表情が見たくて、声を聴きたくて。



だから俺はいつも君を『イジメ』たくて、しょうがない。



END

*将さまのみフリーとしてお持ち帰り可能です。
 

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