□君への想い
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もはやBBAの集まりの場となった木ノ宮家。
今日も朝早くから全員が集まり、ベイの調整やデータ取り、バトルをして過ごしていた。

「………仲良いな、あの二人」
「はぁ?」

ポツリと呟かれた言葉に間の抜けた声をあげる。
ジッと見ている視線の先を追ってみれば、そこには縁側で楽しそうに笑うマックスの姿。
そして、その隣には話し相手となっているカイの姿があった。
会話の内容はハッキリと聞こえないが、それでもマックスの笑い声が聞こえるので面白い話でもしているのだろう。
まぁ、確かに仲がいい様に見えるが……タカオは視線を自分の隣へと移す。

「なんで、そんな不機嫌なんだ?」
「別に」

レイの低めの声に、少しビビリがはいる。
そんなタカオの様子には気づかず、レイはいまだに2人へと視線を向けていた。
いつもより細められた瞳は相手(とくにカイ)を今にも射殺さんといわんばかりに鋭い。
なにかしら相手に話しかけマックスが笑うたび、さらに機嫌が悪くなり、周囲のオーラがだんだんと黒く重くなってゆく。
あまりにトゲトゲしい空気にタカオは、自分達の向かい側でデータ整理をしているキョウジュの隣へと非難した。

「こえ〜…」
「羨ましいなら話しかければいいのに」

パソコンを打ちながらも、やれやれとキョウジュは呆れの溜息をついた。



天気のいい晴れた青空に赤みが差し出した頃、今日の日程は終わり。
結局、2人が話し終わってからもレイの不機嫌は直らなかった。
ずっと顔を顰めている彼を心配して話しかけたマックスにも短く言葉を返すだけ。
いつもと違う声と雰囲気にマックスまでもがビビリ、カイの所へと避難する。
もっとも、それがさらにレイの機嫌を悪化させたのはいうまでもない。

日本家屋な木ノ宮家の門を抜け、レイは挨拶もせずにさっさと帰途へとつく。
それに慌ててマックスはタカオ達に「また明日ネ、bay!」といってレイの後を追いかけた。
不機嫌な仲間を見送ってタカオは張り詰めていた緊張を解いた。

「はぁ〜…つ、疲れた……」
「まったくだ」

カイは重荷をおろすかのように、肩をすくめて腕を大きく振った。
事情を察したキョウジュが「お疲れ様です」と声を掛ける。
重い空気に当てられただけのタカオとキョウジュとは違い、殺気にも近い敵意を思いきり向けられたカイ。
マックスと話している時などは鋭い視線を向けられ背中にグサリと刺さるのではないかと思ったほどだ。
ふだん何事にも動じない自分でも、流石に冷や汗をかいた。
不機嫌な相手はその原因と一緒に帰ったようだが、元凶である本人はまったく気づいていない………さて、どうなることやら。



歩行を緩めることなく足早に歩く仲間を必死で追いかけた。
「待ってヨ!」と声を掛けるが聞こえているのかいないのか、まったくの無反応で歩き続ける。
朝のときは普段通りだったのに、一体なにがあったのだろう?
何度、思い返しても原因はさっぱりで、どう声を掛ければいいのか、どうしたら機嫌が直るのか解決策が見つからない。
思考を巡らせていい案を考えるが何も浮かばず、もうすぐで分かれ道だ。
このまま「また明日」といってサヨナラをする事は出来ない。

「レイ、STOP!!」

マックスは意を決し、走る勢いのままレイの腕にしがみついた。
突然の事に身体が大きく傾くがよろけそうになるのを何とか踏み止まり、マックスへと視線を向ける。
止まったのを確認して腕から離れるも、手はしっかりと握ったままレイと視線を合わせた。

「ネェ、なんで怒ってるノ?なにかイヤな事でもあっタ?」
「別に、なんでもない」
「ウソ、怒ってるネ!」
「怒ってない」
「怒ってル!!」
「怒ってない!」
「怒ってル!!」

こうなるとある意味意地である。
どちらも互いの言葉にムッと機嫌をそこね、一歩も譲らない。
レイはレイで先程から悪かった機嫌がさらに悪くなり、マックスはマックスで心配で聞いているのだが、これでは逆効果である。
不機嫌の理由が自分であるという自覚がないマックス。
そんな相手に怒りさえ覚え、レイは相手を気づかう余裕さえなくなってしまった。

「怒ってないっていってるだろ!!」
「怒ってるジャン!なんでそんなに機嫌が悪いネ!!」
「どうでもいいだろ!」
「レイ!!ま…ッ!?」

顔をそむけ歩き出そうとするのを、腕を引いて止めようとするが同時に腕を強く振り払われた。
衝動でよろめく身体を耐えることが出来ず、そのまま後方へと倒れしりもちをつく。
なんとか両手をついて衝撃は和らげたものの少しだけ痛い。
文句をいおうと顔をあげた瞬間、マックスは恐怖で身体を強張らせた。
目の前で自分を見下ろすレイの瞳がいつもより険しくて鋭い。
怒りを滲ませた琥珀の瞳がきつく自分を睨んでいる。

「………だよ」
「エ?」
「しつこいんだよ!俺が怒ってようがお前に関係ない!!そんな事でいちいち付きまとうな、迷惑だ!!」

ほとんど叫びに近いレイの拒絶の言葉にマックスは呆然する。
なぜ彼はこんなにも怒っているのだろう。
僕はただいつも通りのレイに戻って欲しかっただけ。
もしなにか嫌な事があったのなら相談にのってあげたかった。
だって大切な友達だから、心配だから、元気になって欲しいから
なのに……逆に怒らせてしまった………

「っ!?」
「…ぁ……ゴメ…な、さい…」

自分を見つめていた青い瞳が歪み大粒の涙がポロポロと零れだす。
震える唇からは小さな謝罪の言葉。
それを見た瞬間、レイは初めて自分の愚かさに気づいた。
自分は一体なにをしているのだろう……
マックスはなにも悪くない、これは自分の身勝手な怒り。
そんな感情で傷つけて……最低だ…

「ゴ…メン……ゴメン、ね…」

震える声で何度も謝るマックスに歩み寄り視線を合わせるために膝を折る。
しかしマックスは顔を俯かせているので瞳を見る事ができない。
それでも止めどなく流れ落ちる雫に、まだ泣いている事がわかる。
すでに涙が落ち続けている部分は濡れて黒く染まっていた。
まったく止む気配がないそれに胸が痛む。
レイは泣き止んで欲しい、その一心でマックスを抱きしめた。

「泣くな…お前は悪くないんだ……ごめん…」

己の肩にマックスを押し付け、耳元で何度もそう囁いた。
本当は泣かせたくない、空のように澄んだ青い瞳が歪むのは見たくない。
いつも皆を元気にする太陽のように輝く優しい笑顔でいて欲しいのだ。
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