□新しい明日
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いつも通りのコースを散歩して、いつもの魚屋さんで売れ残り貰って、いつものお気に入りの場所で昼寝をして、いつもと変わらない今日。
日が暮れて家(住みか)に帰って眠れば、またいつもと同じ今日がくる。
それが人に飼われていない、野良猫である自分の毎日。
そんな変わらない毎日が続くと思っていた。



相変わらず、なんの変わりもしない一日を過ごして自分の家へと帰る。
小さな公園の片隅に置かれた土管、そこが今の自分の住みか。
そんな家ともいえる土管に足を踏み入れた瞬間、驚きで足を止めた。
土管の丁度、真ん中には布団や敷物の代わりにと置いてあるいくつもの布の山。
その真ん中あたりに見たことない塊が一つ。
匂いで同じ猫である事はわかったが、見知らぬ侵入者に警戒態勢をとる。
相手は気づいていないのか、まったく動く気配はない。
それでも警戒しながらゆっくりと音を立てないよう慎重に、相手との距離を縮めていく。
近づくにつれて、その塊が異様に小さい事に気がついた。
残り数歩のわずかな距離を一気に詰めて、相手を覗きこむ。
するとそこには、すやすやと気持ち良さそうに眠る子猫が一匹。

「………………」
「……ン、んにゃぁ〜…?」

予想外の相手に唖然としていると子猫が寝がいりをうち、うっすらと開いた瞳と視線が合う。
空、いや海だろうか鮮やかな青い瞳、寝起きのせいで多少うつろいではいるが美しい輝きを放つそれに一瞬だけ見惚れた。

「…………ッ、ママ!?」

パチパチと何度か瞳を瞬かせ、勢いよく起き上がると同時に大声で叫んだ。
だが、ハッキリと自分の姿を瞳に映した瞬間、嬉しそうな笑顔は曇り、耳と尻尾は力なく垂れさがる。
小さな声で違うと呟き、シュンと顔を俯かせて落ち込み大きな瞳を潤ませる。
だんだんと目尻に涙がたまり、今にもこぼれ落ちそうだ。
子猫の様子に、やっと今の状況を理解できた。
どうやら面倒なのが自分の家に迷い込んだらしい…



ジィ―――――……
目の前の相手は俺が連れてきた子猫を頭の先から足の先まで観察する。
見られている方はどうすればいいのか分からず、大人しくしていた。
そして一通り観察してフムと考え込む相手に声を掛ける。

「どうだ、見たことあるか?」
「んー、いや無いなぁ」
「そうか…」

相手の言葉にガクリと肩を落とす。
昨日、どうゆう訳か自分の住処に迷子ならぬ迷い猫がいた。
本当ならさっさと追い出して知らん振りを決め込むつもりだったのだが…
迷子の子猫は、にゃーにゃーと大きな声で泣き出しあまりの煩さに必死で泣き止ませると今度は泣き疲れたのか自分に引っ付いて眠ってしまった。
引き離そうとしても、なかなか離れず目を覚ましてまた泣かれるのも面倒だったので仕方がなくそのまま一夜を過ごした。
そして今日、朝一で迷子を引き連れ顔なじみの猫の家を訪れた。

「ちび助、おまえ名前はなんていうんだ?」
「僕、チビじゃないマックスネ!」

チビといわれたのが気に入らなかったのか子猫、マックスはムッと怒りの表情で相手を睨む。(全然怖くないが)
そうか、こいつの名前はマックスというのか。
そういえば追い出すことばかり考えていて名前どころか何も聞いていなかった。

「マックス……聞いたことねぇなぁ…」
「やっぱり無理か?」

そう問い掛けると相手、タカオはニヤリと笑う。

「お前なぁ、この町で俺の知らない事はないんだぜ。でも俺が知らないとなると、多分こいつは何処からか引っ越してきたんだろ」

タカオは木ノ宮という大きくて古い剣道場の飼い猫。
だが、本人は野良猫のように町のあちらこちらへと自由奔放に出歩いている。
そのためか猫のくせに随分とこの町の事や近所の事には詳しい、いわゆる猫の情報屋。
だから俺はここにマックスを連れてきたのだ。

「引っ越してきたんならすぐにわかるさ、ちょっと待ってろよ」

そういって、ひょいと塀に飛びのるタカオを慌てて引き止める。

「おい、こいつは連れていかないのか!?」
「ちびなんて連れてたら日が暮れちまう、すぐ戻るからそれまで面倒みてろよ」
「なっ、なんで俺が!?」
「そりゃあ…」

タカオが視線を向けた先は自分の隣、そちらに視線を向けると隣には自分にべったりと引っ付いているマックスの姿。
横に一歩ずれて距離をあけるとちょこちょこと移動して、またべったりとくっついてくる。
それをニヤニヤと笑いながら眺めているタカオ。

「随分と好かれてるじゃんかぁ、レイ」
「……………」

タカオのからかいの言葉に顔をしかめ、ジロリと睨みつけてもまったく動じることなくいまだに笑っていた。

「んじゃあ、子守頑張れよ!!」

励ましなのか嫌味なのか分からない言葉を残してタカオはさっさと行ってしまう。
そして残された自分としては、これからどうすればいいのか分からず暫くの間、途方にくれていた。
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