□ジュウイチ
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いやな音がして、ナツキの極限まで高められた”手刀”が、太真代の右腕を血で染める。

そのときに足がはずれて、太真代はそこからまた距離をとる。

「ねえ…いまので、手首イったでしょ??」
「…くっ…そぉ…」
「口が悪いのは、かわらへん…か…」

どんなに慈悲深い言葉を吐いても、今のナツキには似合わない。

そう…し向けたのは太真代自身。

それに、後悔は無い。

「まだやるん…??」

ナツキの口の端があがる。

彼女の左腕の防具をはずすということは、本気の戦いの始まりということだ。

(…自分は…あの人に着いてきた事を悔やんではいない。)

太真代の中にいつでも思い描けるあの人。

(…ここで…殺して貰いたかったのだろうか…??そんな事をやらせるのか?
 また…また、殺した罪を1人で背負って生きていかれるのか…??)

太真代は、天使でも見るような目でナツキを見てしまった。

「…どした…?? お前…???」
「…っ…ぃっく…」

氷のような目を見て、涙が出てきた。この…このナツキという人物は…

  ”あたしを、あたし自信を…”

あの時の続きは今なら分かる。

  ”見てくれた…人…”

自分は。あんな美しい人に何をやらせようとしていたのだろう??
あんな人はめったにいない。
あんなに、背負っている人はいない。

「…ごめんなさい…ごめんなさい…」
「??…お前…ホントにどないしてん…??」

(わたしは…こんなにも…弱い…)

太真代の目に目の前に立つナツキが写る。

(けれど、わたしはこの人にあこがれた…)

流れるような青色の髪。同色の吸い込まれるような眼。

(この人は、わたしには”高すぎた”のだろううか…?)

「はぁ…」

いっこうに泣きやまない太真代を見て、ナツキがため息を吐いた。

「なぁ…お前戦う気ぃ、もう無いやろ??」
「…」

それは正解だったので、太真代は黙っていた。

「ふぅ…」

ナツキが息をつくと、まわりの地獄のような空気が元に戻る。

そのまま地面に落ちている防具を腕に付けると、ナツキはいつもと全く変わらなくなった。

そこで問題発生。

「あ…動ける…か…榎澄!!」

美砂都が起きてしまった。動けなかったのは、ナツキが術をかけていたためなので、体に害は無いはずだ。

「あ〜あ。どないすんの??あやちゃん」
「…」
「何??どうなっているの??榎澄?? こんなに怪我をして…大丈夫!!?」

その時、美砂都の顔がバッと後を振り向いた。

「…あなたね。」

心から怒っているであろう声で、美砂都はナツキに言った。

「あんたねぇ、守うてもろうた相手にそれはないやろう??」
「何を言ってるの!!?」
「だから、」

ナツキは自分と太真代を交互に指さしながらいう。

「あたしはあんたの味方で、あんたを守った。そして、あやちゃん…じゃなくて、榎澄が君のて…」
「やめてー!!!」

太真代は叫んだ。

涙で濡れた瞳は、その幼さを表していた。

そして、なんの感情も示さない青い瞳は、その重ねてきた日々の重さと恐ろしさを語っていた。
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