綴られた言の葉

□残酷な少女
1ページ/3ページ

「どうしたの……お兄様?」
その少女は、その男を見下すような目で、嘲笑った。十五にも届かないようなその顔つき、黒いワンピースから覗く、今にも折れそうな体躯。腕や足はワンピースの黒に相対するかのように白い。
その男は壁に磔にされ、脇腹にはナイフが刺さっていた。男の脇腹からは赤い液体が流れ出し、一筋の小さな滝を作る。さらに、その赤い液体は男の爪先からぽたりぽたり流れ落ち、足元に置かれた透明な容器の中に溜まっていく。ナイフは男の背後にある壁にまで届き、ナイフはぴくりとも動かない。
「ぐぅ……」
「ふふふ。動くとナイフがお腹抉っちゃいますわよぉ、お兄様?」
「っな、なん……で」
男はじっとしたままで、搾り出すように声を出し少女に問う。
「わたくしの意思ではありませんわ。ただ、お兄様が望んでのことでしょう?」
「俺……は、こんな死に方、望んでは……いな、い」
「死を渇望する者にはより最悪な死に方を、ですわ。……生きることを望まぬ者に生きる資格は無い、自分の命を粗末にする輩など、綺麗な死に方なんか相応しくない。より無惨で、より残酷な死に方が相応しい。そう思うのですわ。……さて」
少女は男の足元に置かれた容器を見る。赤い液体は容器の半分ほどまで溜まっていた。
ちゃぽん。
その白い人差し指を液体の中に沈め、すぐに引き上げる。
「汚らわしい……汚らわしい」
そう言い放ちながらその赤い人差し指で男の背後の壁に周囲に円を、文字を、何かの記号を、書いていく。書く円が、文字が、記号が掠れる度にちゃぽん、ちゃぽんと指を容器に沈め、再び書き始める。
「っ、な、なにを……血文字?」
「安心して。すぐに送り届けて差し上げますわ、お兄様?……これで、いいわね」
男の周囲には、男を中心にした幾重にも重なった赤い円。その中にはおびただしい程の赤い文字と記号が踊っていた。
ふっ、と少女が笑う。
その笑顔は、どこか妖艶で、闇を帯びていて。
「さぁ、わたくしのこどもたち、出ていらっしゃい」
「!!」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ