私は世界のすべてを見てまわってるの、と雌鶏は言った。
彼女がそれを言うのは7回目だったのだけれど、変わり者のダチョウは真剣に話を聞いて、44176回も相槌を打った。雌鶏が話す世界のことを聞きながら、なによりも生まれて初めて見る『鶏』という新しい不思議を、確かにその目で感じながら。
そうして彼は、12回目の相槌を打ったあたりから、自分のことを考え出した。長い首、大きな身体、飛べないのに付いている羽と、『鳥』である自分。
雌鶏の話はダーウィンから南の島へと飛んでいって、そこから更に羽を伸ばして、ついには南極に辿り着いている。
ダーウィンから南極へ。
ダチョウは目を閉じて、ゆっくりと想像をしてみる。
……ここじゃ握手出来るくらい近くにいる太陽がね、あそこではいつだって、ようやく顔が分かるくらいの遠くにしかいないの……ペンギンの真似をしてみたのは素敵な体験だったわ、それは本当に素敵な体験よ……ペンギンてね、あなたに少し似ているの……きらきら光る地面を滑ったり、アフリカには絶対にないくらい冷たい水の中に潜ったり……
雌鶏の静かな口調は、アフリカの草原の中で自分がペンギンになったように感じられるくらい、ダチョウに素晴らしい想像をさせて、再び彼が目を開くまで、彼女はしばらく口を閉ざした。
そしてダチョウの身体に灼熱の風が戻ってくると、私は世界のすべてを見てまわってるから、と8回目になる台詞を雌鶏は言った。



雌鶏が去ったあと、ダチョウはずっとペンギンのことを考えていた。ずうっと。
それから、飛行機よりも長く空を飛べる雌鶏のことも、少しだけ考えた。
自分に似ているペンギン。それにダーウィンに、世界をまわる鶏に、ダチョウは飛べないこと。
彼のたくさんの妻たちが、そんな変わり者の彼に愛想を尽かしてみんな居なくなってしまうまで、彼はずっと考えていた。もアルコールも使わずに、ひとりの時間を多いに使って。
世界のすべてより、ペンギンに会ってみたくてたまらなかった。
そしてダチョウは飛ぶ訓練を始めた

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果たしてダチョウは飛べたのか







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