※短編集※

□幼少時代(U)
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 〜授業参観〜


某月某日。


慶太と光輝にとって、初めての授業参観日が日曜日に行われる。


しかし…。


「お父さん。日曜日はお休み?」


慶太が訊いた。


「いや…授業参観だから仕事なんだ。どこか行きたいのか?」


「じゃあいいや。何でもない」


「?」


双子は父親が仕事と知るや、授業参観のことは内緒にしておくことにした。


「お父さんは、皆が尊敬する先生だから」


「うん」


「俺達がワガママ言っちゃいけないんだ」


「僕らのお父さんなのに?」


「俺達だけのじゃない。皆のだ。でも、俺達は子供だから、ちゃんとしてないといけないんだ」


「…分かった」


光輝は渋々頷いた。


慶太には、この時期から理解出来ていた。


(父さんに甘える訳にはいかない)


…と。




授業参観当日。


双子がランドセルを背負うと、慶太の担任の先生が声を掛けてきた。


「野杉。お父さん、来なかったのか?」


「仕事だから仕方ないよ」


「そっかぁ。でも、ちゃんとワガママ言わないと…。お父さん、君達が大好きなんだからさ」


「ワガママ言わないって決めたから」


「どうして?」


「いいじゃん別に。光輝、行こ」


立ち去る双子を見送り、担任の先生は先行きに不安を感じていた。




双子は帰宅して驚いた。


父親が黙って座るよう促しているのだ。


恐る恐る正座し、恐る恐る様子を伺う。


「お前達…どうして言わなかったんだ?」


「何で知ってんの…?」


「村川の小父さんは、お前達の学校の栄養士さんだろう。そのツテだ」


「そうだったっけ…」


「慶太は問題ないが、光輝の担任…あれは何だ」


「…は?」


「あんな雑な教え方で子供が伸びる訳がない。所詮はオバハンだな」


「待った待った!何で、そんなこと…」


「見に行ったさ。10分も居なかったがな…」


双子は驚くばかりだ。


「しかし疲れた…。今日はピザでも取るか」


手を抜く所とそうでない所をはっきりと区別出来る父親。


双子はワガママを言えないのではなく、言う必要がないのだ。




〜END〜
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