※短編集※

□番外編(T)
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 〜星渡と野杉の出逢い〜


一年の星渡は、帰宅しようと校内を歩いていた。


季節は梅雨。


雨上がりの気候は肌に不快感を与えた。


そんな時、背の高い男が向かいから歩いて来る。


「さよなら」


星渡は挨拶した。


男は笑顔を見せて、こう返してきた。


「さよなら」


そのまますれ違う。


「…目つき悪いな…。誰だ?」


星渡は振り返る。


男は肩までの長髪を一つに束ね、グレーのスーツを身につけていた。


挨拶を返してくる男の一瞬見えた顔は険しく、一言で言えば…怖い表情をしていた。


翌日、また会った。


帰宅しようと校内を歩いていた時だ。


その翌日、また会った。


「よく会うな」


男が言った。


「本当に…。あの…。お兄さん…誰?」


「野杉雄二。実習生だ」


「俺、一年の星渡準也」


そういえば、実習生が何人か来ていたな…と今更ながら考える。


自分が変わらなければ、周りがどう変わろうが知ったことではない。


人との関わり合いを知らない星渡は、そうやって高校生活を過ごしてきた。


「星渡君。高校は楽しいか?」


「どうだろう…。毎日やること同じだし。先生は?」


「君と同じだ。俺はともかく…君は楽しくしなきゃならんだろう。友達や仲間と遊びに行く…とか」


「う〜ん…。友達ってさ、本当に信用してないとできないし…信用したくないものでしょ?」


「…信用したくないと言うのは、人間不信だからか?」


「どうだろう…分からないけど、学校が楽しくなくても別にいいや…って感じ」


「ふむ。そうか…」


これが、出逢い…。


こうしていつも帰ろうとしてる時に会う。


それが続いた、ある日…。


「実習期間が終わった。大学へ戻る」


「早すぎない?」


「そうだな…。だが、確かに日が経つのは早いと、そ
う感じる時があるものだ」


違う…。


そういう意味で言った訳じゃないんだ。


星渡は頭に手を置かれ、急に胸が苦しくなった。


「頑張れよ」


野杉が去って行く。


星渡は何故か、こう言わないと後悔しそうでならなかった。


「来年、戻って来てよ」


野杉は立ち止まることなく、振り返ることなく手を振った。


後日、実習生に対しての感想文を求められた時、星渡は恥ずかしがりながらも、こう書いた。


“野杉雄二には戻って来て欲しい”


…と。
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