※短編集※
□かつての日々(T)
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目的地へ向かう車の中。
「こうやって、悟史と二人で外出するのも久しぶりだな」
「うん」
「買い物が終わったら、寄り道しようか」
父親は、何か楽しそうだ。
…いつもの事だが。
「親父ってさ…。絶対、悩みとかないよな」
「あるさ」
悟史は少し驚いて、運転する父親の横顔を見た。
「会社でな。若い部下は言う事を聞かないし…父さんが、その部下の失敗に責任を取らされる。こんな馬鹿な話があるか?」
「アホらしいな」
「だろ?だから、社長に言ってやるんだ。失敗した責任は本人に取らせろ…ってな」
「それで?」
「社長は笑顔で言ったよ。頑張れ…って。鬼だよ、あの人」
言いながらも、父親はクスクス笑っている。
「それほど悩んでないだろ」
「分かるか?悩んでも仕方ないからな。悩んだら、愚痴を言う。味方が増える。共感してくれる。充分だ」
「ふぅん…」
目的地に到着し、母親に言われた物と…。
「小さいな…」
サボテンを買った。
「これから育って、花を付ける…痛い!」
「気を付けろよ、親父…」
誤って触れてしまった父親は、トゲを抜く。
再び車の中。
「おや?」
父親は車を停めた。
「どうかしたのか?」
「ミュンヘンの古城…。もう売っていたんだな」
「ミュンヘンの古城…ああ。先週、発売日だった」
「寄るか?」
「当然」
二人は本屋へ入る。
「悟史。欲しい本があれば、一冊だけ買ってやるぞ」
「やった!」
悟史は、本を一冊手にした。
「天馬の騎士…?読み終わったら、父さんに貸してくれ」
「ミュンヘンの古城も、読み終わったら頂戴」
「ああ」
目当ての本を手に入れ、二人は車へ。
喫茶店で道草を食って、帰宅した。
早速、サボテンを悟史が庭に植えた。
「可愛いね」
由梨香が屈んで見る。
「触るなよ。トゲが刺さるからな」
「分かってるもん」
由梨香は、飽きずに見ていた。
育てば、黄色い花を咲かせる…小さなサボテンが三つ。
悟史は、特に興味を示さなかった。
〜END〜