⊂stories⊃

□愚者の楽園へ 01-06
11ページ/29ページ

愚者の楽園へ 03







亜熱帯並みのハイスコアを叩き出す『Neo-Edo-City』の夏の外気温は、 季節の枠を蹴り倒し、 僕らの職場のエアコンを仲春から晩秋迄フル稼働させた。






 |アトモスフィア|01|
 :atmosphere

 

  [teller]
  ⇒ SHINPACHI









奴がブッ壊れたのは年明け直ぐ。 電化量販店で見た新しい冷暖房付空調機はそれはもうすこぶる高かった。 …だから今は未だ無い。

宇宙風邪(天風邪)対策で空調機には“室内滅菌お任せ∞フィルター完備”が幕府規定で義務付けられ、 その分以前より高いみたいだ。


待ってろ
近い内必ず
身請け金揃えて
迎えに行くからな
『パワフル風量』!








 僕らには
“空調機”が
 必要だった





取り敢えず金、 仕事探して来ないと。 その前に先ず……


今僕は、 割れた受話器にセロテープ貼って直してる。 これ無いと依頼も受けられないしさ。


昨夕、 銀さんが放り投げたレトロフューチャーなデザインの電話には、 テーピングの修理跡はダサ過ぎた。 まぁ良いツーツー言ってりゃ通話可だ。





 必要なのは
“空調機”




ストーブも
炬燵も要らない
ちょっとは寒いけど


違うんだ今の気候は。 何故かこの江戸界隈だけ昔と全然違う。 以前の様に銀さん曰く『気ぃ狂う』程、 底冷えする寒い日なんて無い。 炬燵の有る家が凄く珍しくなった。



『江戸暖房、
 火鉢一つと
 女の一人も
 在りゃ足りる』



現在の江戸の気候を揶愉したこの唄が正にビンゴ。 万屋は…


火鉢(←古い)一個
女子(←多分)一人
犬(←オマケ)一頭


唄われる“女”の意味とは掛け離れた……否、 完璧に別物の存在価値では在るが、 暖房の頭数(アタマカズ)としては足りてる。 後は気合いと厚着で。




たまに



子供の頃、 冬に息が白くなったのを思い出す。


何故かいつも決まって同じ、 超意味の無い短い光景だ。 当時未舗装だった実家前の砂利道で、 父と姉がこっちおいでと僕を喚ぶ、 それだけの、 その時の…


笑う顔。
揺れる手。
二人の口元が
白く霞んだ。


煙草の煙りに良く似てるな……と、 こないだ思った。







冬を

何となくしか
覚えていない

江戸にはもう
雪は降らない






また3月にもなれば、 夏のハイスコアを予兆させる汗ばむ日が増え、 間も無く従業員K曰く『気ぃ狂って死ねる』様な真夏日熱帯夜がやって来るだろう。








¨

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ