⊂stories⊃

□愚者の楽園へ 01-06
2ページ/29ページ

愚者の楽園へ 01


 |01|

 

  [teller]
  ⇒ SHINPACHI











「アダルトエロトピアからお越しの土方様、 お連れ様が1階ゲーム機器売場にてお待ちになっております」




少ない予算と相談すべく、 今冬の務めを任期半ばで放棄しやがった万屋唯一の冷暖房空調器具・エアコンの価格調査に来たここ、 ビッゲストカメラで、 炬燵に憧れる神楽ちゃんと、 石油ストーブの上でお餅が焼きたいらしい銀さんと、 予算幾らだ今日は買わねぇ見に来ただけだ、 俺達誰もリボ払いなんて出来る程世間に信用されて無いからねカード無いからね、 等と清貧な遣り取りをしていたら、 前述の館内放送が流れた。

ちょっぱや現われた例の制服の背の高い人が、 1階中央に特設されてた空調機器売場の横を、 脇目も振らず通り過ぎ、 大股で奥のゲームコーナーへと消え入る。 と、 同時に何だか聞き取れなかったけど罵声が響き、 うゎぁ人迷惑な重低音…と銀さんが呟いた。


暫くして、 僕らが燃費の良さとパワフル風量が売りのガッツ有り気な一押し商品の購入に向けて、 漫画喫茶で深夜バイトだ、 米喰うな節水だ、 今から歯磨き粉は塩だと赤貧な金策の相談をしてると


「お前ら、
 ロープレ休暇なんて
 取りやがったら、
 本体ごと
 没収するからな」


奥からさっきの重低音の主が財布を内ポケットに仕舞いながら出て来た。 またもや脇目も振らずに出入口へ向かう。 店の外迄のあと僅か2〜3歩が我慢出来無い感じで、 煙草を1本喰わえて火を付け、 幸せそうに吸い込んでから、 先戻るぞ、 と後方に声を掛け店の外へ消えた。

予想に違わず後からゆっくり現われたのは若い隊服姿の見知った二人で、 上司の金でゲットしたゲームソフトの包装紙をひたすら剥ぎながらケタケタと楽し気に歩いて来る。 僕らには気付かない。


このまま
気付かなけりゃいい




 「馬鹿コンビー!」



―!!

よしゃいいのに叫んだ神楽ちゃんの頭を僕と銀さんが慌てて押し下げ、 3人が商品の陰に屈むのとほぼ同時に、 奴ら(勿論今日も帯刀している)がクルッと振り向いた。 あっぶねぇ…

低い態勢のまま移動して二人を見やると、 姿が見えないのを訝し気、 小首を傾げながらも余り気にも留めない様子ですぐまたケタケタと笑い出した。 あの組で最も常識が通用しそうな“山崎さん”が、 自分も堪えきれずに吹き出しながら、 アンタ笑い過ぎだから明らかにウルセエから静かに…と連れの馬鹿笑いを諫めてて、 なんか二人とも寺子屋の子供みたいだ。




馬鹿笑いの


若い人斬りの声は
よく透る







¨

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ