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□愚者の楽園へ 01-06
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愚者の楽園へ 01


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  [teller]
  ⇒ SHINPACHI








馬鹿笑いのアイツは
声が透る


多串氏の低く響くそれとは違う、 ハイボイスの、 旨く言えないけどラジヲ越しに聴いてる様な、 囁く様な…そんな感じの声は大きくないのに良く透る。

──癇(カン)に触る、 と銀さんは言う。


そうかなぁ



鬼道丸さんの一件から、 僕らの職場で彼の話題は禁句みたいに成ってた。



ハラいてェ、 とか言って二人の憑かれた様な笑いは落ち着いた。 容姿はやけに良いんだけど、 遣る事がどうも子供染みてる片方が、 自分の額を指差して言う。


「山崎、 やっぱ
 タワレコ行く前に
 どっかでコレ
 落とそうぜィ」


…?

その時丁度、 今期一押パワフル風量が彼らの前髪を吹き上げ、 丸見えになったおでこには一人ずつ漢字で

『馬』『鹿』

と、 書かれてた。



…どうも多串氏の反撃を喰らったらしい。

馬鹿馬鹿しくて思わず吹き出し爆笑を堪える僕らを置いて、 馬と鹿は、 こりゃ油性だから屯所に帰って取るしかないスね、 と談笑しながら出て行った。

その背に蔑視をくれたまま神楽ちゃんが、 彼女が幼気な女の子だって事等スパッと忘れさせる、 例のポイズントーキングを始める。

でもそれは
毒舌と言うより


「ふぅー、 見たアルか
 相変わらずの
 頭ユルユルっぷり

 お遊びネ。
 ガキが凶器持って
 警察ゴッコ。
 江戸を守るフリ。

“公儀の特権”=“刀"
 オイシイ後楯が
 手放せない
 ハンパなガキは
 家でクソゲー
 してればヨロシ」




ほとんど それは

いつか
銀さんが
言ってた“沖田論”で

銀さんにしては
珍しく
ストレ−ト過ぎて
遊びの無い

らしくない

……



「銀ちゃん
 このハイパー・
 ローセンスな人事は
 誰の仕切りネ!
 ダイジョブアルか
 この国」




答えない
銀さんの代わりに


「何、自分
 棚に上がっちゃって
 んのよ神楽ちゃん
 アンタ持ってる
 それ、 傘!
 凶器だし!
 それにさ…」

その時、 僕は何気に彼が仕事好きだった事や、 神楽ちゃん相手に分けの凄腕だった事を言おうとして、 止めた。 黒服一味か? とかすぐ言うし…


「それにさ、
 あの感じで
 警察やってられん
 だから、 この国
 意外と平和
 なんじゃないの?
 てな事で取り敢えず
 帰って飯に
 しましょう」


代わりに僕が
答えといた。






物凄く小さな声で



たぶん銀さん本人も
音にする気は
無かっただろう
そのくらいのパルスで

絞り出された声は

今は、

聞こえないフリを
してあげよう











「知らねぇ
 この国の事なんか」
















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