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□愚者の楽園へ 07-09
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愚者の楽園へ 07


 |ハピリィ|01|
 :happily

 

  [teller]
  ⇒ KONDO















これは




人には幾つも脳に焼き付いて忘れられない情景なんかが在って、 何かのスイッチが入る度に、 脳の奥で巻き戻り繰り返すその時のその光景、 感じた匂いや味、 風、 音、 光、 思い…


人の心は、 そうゆう物から創られている。





そんな話だ











今になって思えば、 昔、 遥か武蔵野から臨むNeo-Edo-Cityの景観は、 視界一杯の巨大なモニターに映し出された合成画面を早回しで見ていたんじゃないかと錯覚する。

越境者達を運び飛び交う巨船が、 虫の様に周囲に集(タカ)り吸い込まれ、 また吐き出されるどデカい円柱の巨大要塞を中心に、 瞬く間に針山の様なビルが生えた。

形を変えながら育つ街の影も、 彩度を高めにデジダル処理した様な雲の色も、 朝方に針山の上に架かる薄い虹もその全てが現実味の無いSF映画の様だった。

夕闇が近付くと針山には明りが灯り始める。 日が落ちきった夜の闇の中、 都市全体が地平線に浮かぶ光の塔の島になった。







不思議と
泣かない子だった




新世界から
来た子供は
空ばかり見ていた



クローバーが覆う
草っぱらに寝転び

月夜の縁側で
弾けねえ三味を
ペンペン鳴らしながら




初夏の昼下がり、 川沿いの高い長堤の上の見晴らし良い一本道で立ち止まる。 唯ぼーっと口半開きで。 覗き込んで顔を見たら、 でっか過ぎる瞳に遠くの空色が映ってた。


俺も振り返って見る。

成る程、 空ってぇのは綺麗なもんだ。

青空の下、 スモックが出て江戸のビル群が霞み、 熱気に揺らぐ。 見たこた無ぇけど蜃気楼って奴ぁこんなかな、 と俺が言ったら、 ソレっぽいと笑った。



3代目が旧い知人から引き取った、 発条(ゼンマイ) 仕掛けの玩具みたいな子供は、 スッゲー勢いで鼠花火みてぇに走り回ってるかと思うとピタッと止まってコテッと眠って、 また物っ凄ぇ勢いで竹刀振り回して屋根から飛び降りたりしてたかと思えば、 行き成りビタッと地べたに座り込み、 のーんびりと空を見上げた。


ガキなんてぇのは皆そんな風に良く解らねえ行動を取るものらしいが…


それ迄、 ウチの道場にはこんな小さい弟子なんざ居なかったもンで、 門下の皆がこの小さい人間風味の生物がスバッこく動き回るのが珍しく、 面白がった。



廊下でソロバンに乗って滑ってて、 勢い余って庭にすっ飛んじまったりするのなんか実にアクロバティックで見応え充分。 庭の真ん中に背から受け身で着地し、 コロコロ転げた後、 何事も無かった様な顔でテテテテッと屋敷に戻って来る。

目が合うと照れ隠しか何か知らんが、 親指立てて『グッ』とか言う。 だから俺も同じ様に指立て『グッ』。 見合ってニッと笑った。









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