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□愚者の楽園へ 10-12
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愚者の楽園へ 12


 |フィギュア・アウト|02|
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  ⇒ SHINPACHI











話してる内、 僕らの共通する手習い“剣”の話しになって、 何もかも違う世界から来たように見えてた総ちゃんが、 実は物凄く自分と近い境遇だったと知る。

この人も近藤さんちでは僕や姉のように、 いつか流派を受け継ぐはずの人だったんだ。 もう、 その当時の道場も流派も組も責任も何もナイらしいけど。 僕だって別に恒道館なんか無くていんだけどね…

途中、 今から出勤する姉が通り掛かり何か“ボクたち早く帰んなさいよ”的な子供に言うような言葉を僕ら3人に掛けてった。 二人の友人は立ち上がって、 ご息女には日頃より近藤が多大なご迷惑をお掛けして……と、 大人向けな挨拶くれてんのに。 年だって山崎さんのがもしかしたら上かもしんねーのに…

で、 (恐い)姉上も居ない事だし…と、 彼らはそのままウチに道場を見に来た。





使う人のいない家屋は痛むのが早い。 あ、 そういやこないだ道場掃除して貰ったとか姉が言ってたな。 どーりでもっとヤバいかと思ってたのがソレ程じゃない。 綿埃が舞ってても良いはずの床は、 裸足でも足の裏に不快感がない。 それでも天井近くには大きな蜘蛛が巣を張ってたし、 漆喰は多雨な気候に負けあちこち染みが広がってた。


汚いでしょ?
と聞くと


「ウチも
 ボロか…や、
 古かったから」


と総ちゃんが答えた。

ソレから僕達は暫らく誰も喋んなかった。 総ちゃんは道場の雨戸をカタカタカタカタ一人で開け、 庭の方向いて床にぺたっと座って、 其処に山崎さんも寄ってって座って、 僕も蚊取り線香持って近くに座って、 二人がしてるみたく空を見た。

手入れしてない庭木と、 隣家の瓦屋根の向こう、 死んだ父上が嫌いだった天人の船は、 あの頃よりもっと毛嫌いしそうなケバい色のビカビカしたヤツばっかし空中飛び回って、 その奥に最近見てなかった月が、 造り物の蛍光灯みたいな明るさで真ん丸く輝いてて、 何故か少し泣きたくなった。


そのうち山崎さん達は、 どの宇宙船が何処の星の船でどれは幕府の貨物でアレは噂の空の大遊廓、 アッチのド派手なのはカジノ……カジノ船が一番イカしてんねー、 とかって好きな船を選び始め、 僕にも好みを聞いてくるんだけど、 空のゴミだと思って今迄見てた物の中から、 行き成りフェイバリット・ワンは選べなくって……

ああ、 この人達は
新しい物を受け入れ、
過去よりも未来を見る
大人達の中で
育ったんじゃないかな。


「アンタんちの
 三代目生きてたら
 カジノ船
 乗りたがったんじゃ
 ねースか?」

「違ェねー」


……って、 風にゆらゆら揺れる灯に照らされて、 屈託の無い二人が笑うのを聞きながらぼんやり思った。









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