⊂day-to-day⊃

□ Tokyo Go-Go 1
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  No.150…2







「アタマにささる」

んだってたまにエイダが言う。 店にはそのコ達とは別に経理だかの女も居て、 よく“洗濯物を外側の窓に掛けちゃダメ”とか“洗面台に髪の毛を流すな”とかお小言を伝えに顔を出す。 その人の高音の声がキーンと頭に刺さる様だって、 ピーンと張った人差し指をこめかみに押し当て僅かに眉間に皺寄せて言う。

エイダは普段はあまり他人についていろいろ言わない。 本当はいつもリリの話に飽きてお喋りから離脱するんじゃなく、 話が盛り上がるとリリの声のトーンとボリュームがだんだん高くなるから。 って事も誰にも言わない。

エイダはでも、 いつも後から抜けて来て少し離れたトコに座るスゥが、 本当は高めの地声を自分と話す時には低く落としているって事を知ってた。




スゥとエイダは半分通じる言葉で店からの命令通り沢山の嘘をつきながら、 それでも沢山のホントの話をした。 お互いに何処迄がホントで何処迄がウソか解らないまま。


スゥは自分の名前はエイダの国では何て発音するのかを聞きたくて、 エイダに本名を言った事があった。 たった一回だけ。

ある日、 僅かに開いた窓の隙間から射す朝日の帯の中でキラキラ舞うホコリをタイルの洗面台に座って二人で見てた。 飼っていたネコの名前、 昔やってた習い事、 そんな話をし合った後でエイダは他の人を起こさない様な小さな声で外国語の歌を唱ってた。 何て歌かスゥが聞いたら、 スゥの本名と同じ名前の歌だって言った。 ずっと前に一度だけスゥがエイダに言った本名。




その日の夜、 店にスゥのパパとママが探しに来てそのまま遠い家に連れ帰って彼女の家出は半年もしないで終わった。

数日後にスゥがママ達の目を盗んでお店に電話した時にはエイダは入管に行った後。 国に帰るって。

入管に聞けば会えるかと思い起ってまたこっそり公衆電話に走ったけど、 ダメだった。 それ迄気が付かなかったけど、 スゥの方は知らなかったから。 エイダの本名を。



二人はそれきり。





エイダの故郷は広大な国の東部の端の方で暖かい気候だって言ってた。 海沿いで魚が美味しいって。 そんなの全部嘘っぱちかもしれない。 小さい頃習ってたピアノの話も実は結婚していて国に赤ちゃんを置いて来たって話も。 スゥは別にそんなの嘘でも本当でもどうだって良いと思ってた。

育った実家は1階で商売をやってる、 プールバーだったって言ってた。 それだって嘘だったかもしれない。 けれどそれから何年経ってもスゥはビリヤードをする度にあの鮮明なピンクの爪を思い出す。




それから思う。

自分達はきっと世間の普通の偉い大人から見れば、 正しい暮らしでは無かったんだろう。 いっぱい悪い事をして、 いろんな違反をして、 そう、 暮らしぶりはやっぱり正しくはなかった。



けれど


あの時の
あの頃の
思いやりや
心は
普通の人間だった。





だからスゥは今も
エイダに会いたい


















¨


コレは全くの
フィクションです

Feb.28th.06


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