⊂day-to-day⊃

□ Tokyo Go-Go 1
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No.182
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東京ゴーゴー
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  東京ゴーゴー
  [#033] Sherasco



 


 


外国の食堂にいるみたいだった。 店の前でシェラスコが火に炙られて脂肪が下に滴ってる。 お腹が空く匂いが立ち込める。 トルキッシュのシェフが手際良く肉片を削ぐ。

欧州と中近東の間にトルコはある。 地理的な事情で、 ずーっと昔から血も文化も混ざって溶け合って育まれた独特のエキゾチックなエネルギーに満ちた国。 その店は、 内装も調度の模様も油の染み込んだ感じも現地の食堂みたいだった。

只でさえゴチャっと感の否めないその街で、 派手な宣伝看板はなく、 今風小綺麗カフェみたいなノリじゃなく、 埋もれそうな間口の店先に漂う“イイ匂い! ”で、 奥に軽食ができる異国のお店がある事に気付く。



その道は比較的よく使うのでその店は知ってた。 その頃、 外で食事する事が殆どなかった。 外出中に用事が長引いても外で同じ所に長時間滞在しなきゃならないのが嫌で、 外食する気にならなかった。 その時も。 でもその日はお腹がとっても空いてた。 とっても良い匂いだった。 立ち止まって良い匂いの方を見たらもう昼食時間が終わる頃で、 お店は小休憩に入る様子が伺えた。 …のにね、 カフェエプロンしたきれいな女性がすぅと出て来て「どうぞ」って。 その人はノーメークっぽかったし、 派手な何かを身に着けてるんでもないんだけど美人だなって思った。 清々しいって言葉が似合うのかな。


お腹空いてた。 美味しそうな匂いだった。 そこに声。 つい入ったの。 その時間お店には異国のシェフとフロア係の彼女だけで客は私一人だった。 炙ってたお肉を薄いパンみたいなので野菜やソースと一緒に挟んだ軽食とジュースを飲んだ。 美味しかった。 その間、 お店の人は静かに日本語とトルコ語の混じった会話をしてた。


一カ所に長い時間いるのが嫌だった。 でも、 その時は食べ終わってもテーブル隅の灰皿を見つけて煙草吸っても良いか聞いた。 「どうぞ勿論。 今禁煙の所多いですよね、 ここは大丈夫」


その店ね、 何かきっと無駄な力が入ってないの。


煙草1本吸い終わる頃、 そのまだとっても若いんだろう女の人がサラッと言ったんだ。



「今、 私が飲むんで
 紅茶入れてるんです
 急いでなければ
 一緒に入れるんで
 1杯いかがですか」





紅茶も
とても美味しかった。

何より
雰囲気が
有り難かった。





その頃、 外に長く居たくなかったのは本当は、 事情があって人間の持ってる悪意について考える事が多かったからだったんだと思う。 満面の笑みで過剰のサービスと引き換えに他人を傷付ける人々や、 自分の評価の為だけにハイテンションをキープする人々。 特にあの時の私には、 そう言うのが必要なかったし、 見たくなかった。 別にムリヤリ興味惹いてくれなくていいし面白くなくていいし高級でなくて良いの。

高尚であれと望むなら気持ち的な物に対してが良い、 そこに評価なんていらない。













 


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Sep.5th.'06


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