創作小説

□誓い
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「クロエ、コレ市で貰った。」
闇の中にいた頃に比べれば、奴は随分回復しただろう。
闇の中から救い出した直後、奴は倒れて仕方なくクロエが引き摺り、近くの村まで連れてきた。が、中々目を覚まさない奴にクロエは妙な感情がわいている事に気が付く。
それは、きっと、母性本能という奴なのだろう。
クロエは今までそんな感情を感じた事がなかった。男に抱かれようとも、何をしていようとも…
「お礼は?」
「言ってきた。」
ならよし、とクロエは奴の頭を撫でる。
この村に来てから二週間近くになる。そんな間に目を覚ましてから奴は村の人々に溶け込んでいた。
だから、たまにこうして知り合いの者から食べ物などを貰ってくるのだ。
「ダーク、今日は剣の稽古はどうしたの?」
「朝にした。」
クロエは奴に名前をつけた。
その名もダーク。闇の中にいたからという安直な名前。それでも奴にとってそれは嬉しかったようだ。
奴に与えたのはそれだけではない。
知識も剣も技術も魔術でさえ、クロエは奴に叩き込んだ。
奴はまるで渇いた大地が水を吸い込むかのようにそれを瞬く間に吸収していった。
まだ教え始めて一週間ほど。だがすでに、一般教養の枠をはずれる程の知識を奴は得ている。それには、さすがのクロエも驚くものがあったが、自分自身もさして奴との変わりは無いため、驚くのをやめた。
それは自分に驚いているのと同じだから。
「朝の稽古のほかに夕方の稽古も教えたでしょ?それやらなかったら今日の晩御飯は抜きだから。」
「う…わかった。」
そう言ってダークは広場の方に向かった。
クロエはそれに大きくため息をつく。
自分も相当焼きが回ったようだ。これではまるで本当の母親みたいではないか。
実際、ダークもクロエのことを母のように慕っているのだが、それは兎に角今の問題ではない。
自分が言いたいのは、「破壊の魔女」と恐れられた自分が今では母のように厳しく、そして優しい存在になっているなど言語道断なのだ。こんな姿を親友と呼ぶべき存在に見せたら、間違いなく笑われるのは見えている。
だが、笑った後に必ず言うであろう言葉もすでに見当がついていた。
あいつなら必ずこういう。
「その方が貴女をより一層素敵にさせるわ」
と。
そこまで考えて、クロエは先程より大きなため息をついた。
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