創作小説

□ロストマン
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時間はあの日から

止まったままなんだ

遠ざかって行く背中

あぁロストマン 気付いたろ

僕らが丁寧に切り取った

あの絵の名は

想い出…





『ロストマン』






歩いていた…一人の少女が雨の中を。
銀の髪は雨で濡れ、いつもの様に揺れる事は無く、顔に張り付いた。
―ウザッタイ…
酷い嫌悪感に襲われて、少女は乱暴に髪を結んだ。
少女は苛立つ。トロトロとしか歩けない自分の足に、何故か自分の邪魔をする髪の毛に、そして何より自分をこんな気持ちにさせる自分の心に。
速く、速くもっと速く。急かす気持ちは思いのほか強く、前々と歩が進む。
「貴方に会いたい。」
呟いて不意に足を止めた…そこは、教会。
苦しげに顔を歪ませて追想する想い。その時初めて自分が疲労している事に気付く。
「あ‥‥‥」
時は既に遅く、眼前に地面が迫っていた。バランスを保つ事は最早できない…少女は悪足掻きせず体の赴くまま地面に倒れた。と、同時に意識を手放す。
あぁ、私はここで終わりなのか。
一連の様子はまるで自分の人生を表しているかのようで、少女はその外見の幼さに反して老獪な絶望を感じていた。
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