A

□とおこ
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ずっと傍にいたいって、思ってるんだよ

本当に。









「夕月ちゃん、ちょっと来て来て」




黄昏館。
いつもと変わらない、ある日の事。




『十瑚ちゃん?』




十瑚は、夕月を中庭へ呼んだ。
こっちだよ、と手招きをすれば夕月は“はい”と優しく笑って寄ってきてくれる。




「お話しない?」
『はい。あれ、でも今日は九十九くんと一緒じゃないんですね』

「夕月ちゃんと2人っきりでお話がしたかったの」




ベンチに腰を下ろすと、夕月の方を向いて両手を取った。




「……嫌だった?」
『そんな事ないですよ!嬉しいです』




そう答えてくれる事も分かっていた。

…きっと、
こう答えてくれる。
否定なんかしない。
笑ってくれる。
優しい目で、見てくれている。

そう分かっていた。




「夕月ちゃんは、」
『はい』
「…優しいよね」
『十瑚ちゃんも優しいですよ。九十九くんも、ルカも、皆優しいです』




そう言ってくれる事も、分かってた。
なのに、言わせて。
何がしたいのだろう。
自分だけ、優しい温かい言葉を貰って。
自分は、狡いと思うのだ。

泣きそうになった。




『十瑚ちゃん…?』




そんなの、卑怯だ。




「夕月ちゃん、私ね…」




ずっと傍にいたい。
ずっと笑っていて。




「――…ううん、やっぱり…何でもない」




そんな事、言っちゃ駄目だ。




「ごめんね」
『…十瑚ちゃん、』
「ううん…ううん、違うの」




大好き過ぎて、
大切過ぎて、
どうして良いのか分からない。

守っていけば良い。
でも、
それだけじゃ…


本当は、




「ほんの少し、ね…寂しくなっちゃったの」
『え…?』




本当は、

ずっと傍にいたい。




『――十瑚ちゃん、僕…』




大切な、存在だから。




『ずっと近くにいますよ。
大丈夫、僕も九十九くんも皆…ずっといっしょですよ』




だから、今だけでも…独り占めさせて。




「夕月ちゃん…」
『絶対、です』




泣きたくなる程に温かい、この場所で…今だけは、ふたりでいさせて。




「やっぱり好きだなぁ」

『僕もです』





ずっと傍にいたいって、思ってるんだよ

本当に。















  

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