A

□せんしろう
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『あの…』
「何だい?」



ずっと聞きたい事があった。



『今、お時間いいですか?』



それは、自分と、彼にしか分からないであろう、本音。









「夕月くんからなんて嬉しいなぁ」




他の誰にも聞かれたくはなくて、迷惑かもと思いながら、夕月は千紫郎を自室へ呼んだ。
そんな夕月とは真逆で、千紫郎はニコニコと笑っている。




『あの…失礼かもしれないんですけど、』




言葉を1つ1つ選びながら、夕月は俯いたまま話す。
その様子に、千紫郎は少し声のトーンを落とした。




「大丈夫だよ。言ってみてよ」
『はい…』




夕月が心を痛めたり、悩む時というのは、ほとんどが人の為。
話すのに戸惑う程の事なのに、それでも勇気を出して千紫郎に声を掛けた。という事は、



「俺達のこと?」




2人きりで、という事は他の誰にも聞かれたくない話。ルカも例外ではなく。




『…千紫郎さんは…、どうでしたか』
「?」
『黒刀くんや皆とは違う…ううん、皆にはあるのに、自分には無いっていう…もの…』




夕月は前世の記憶が無く、
千紫郎は現世から戒めの手になった。

2人だけ。
夕月と千紫郎だけが、知らない…絆。




「無い、と言ったら嘘だろうね」




寂しいのかもしれない。
羨ましいのかもしれない。

…悔しいのかもしれない。
夕月は尚更。
生まれ変わったのに、知らない。
知ってる筈なのに、知らない。




「でも、俺は思うんだよね」
『…はい』
「この想いを分かち合えるのは、きっと夕月くん」




それってさ、
千紫郎はニコリと笑ってみせた。




「俺には夕月くんだけなんだ」
『………』
「決して、独りなんかじゃないんだよ」




ポン、と肩に優しく置かれた千紫郎の手が温かい。
もう、それだけだって嬉しくて。

涙が溢れそうになるのを、ぐっと我慢した。




「そうだ!」
『…?』
「昼間、黒刀と買い物してきたんだよ」
『黒刀くんとですか?』
「うん。それで、夕月くんが好きそうな和菓子を買ってきたんだ」




夕月の手を取り、千紫郎は部屋を出て、食堂へと連れ出す。




「もちろん黒刀は自分の分を買って…」
『千紫郎さんの分は?』
「あるよ。でも、3人分しか無いんだ」




悪戯そうに笑う千紫郎に、次に来る言葉が分かって、何故か胸が躍った。




「九十九達には内緒だよ」


『…はい』




タイミングを計ったかのように、少しして、黒刀が不機嫌そうに部屋から出てきた。
それを分かっていたかのように、千紫郎は3人分のお茶を用意していた。




  
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