A
□ほつま
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『焔椎真くん、』
昼休み、いつものように弁当を片手に夕月はニコニコと焔椎真の席にやってきた。
「あー、今日は中庭で食おうぜ」
焔椎真の相変わらずのぶっきらぼうな言い方。だけど荷物を持ってくれる優しさや夕月の歩くペースに合わせてくれる事など、それが余計に夕月を笑顔にさせた。
『ありがとうございます』
「おう」
いつもは教室で食事を採る事が多いが、たまにこうやって中庭で食べる事がある。そういう時は、
『皆さんも一緒ですか?』
「いや、九十九と十瑚は任務だ」
『そうですか…』
どうやら今日は違うらしいが、いつもは九十九とや十瑚、愁生や黒刀、そして焔椎真と夕月で食事を取るのだ。
「黒刀も別件の任務で、愁生は委員会だと」
『そう、なんですか…』
あからさまに落ち込んだ様子の夕月に、焔椎真は慌てて今日外に誘った理由を話した。
「た、たまにはいいだろッ!2人だって外で飯食ったって」
…それは、ほんの小さな願い。
「いつもは九十九とか十瑚がいて、2人は無かったろ!」
照れからか、どんどんと足早になっていく。パタパタと後ろから早歩きで追い掛けてくる音を気になんかしてられない。
とにかく顔が熱い。
「教室は他の奴等がうるせーし、」
中庭への戸を開けると、生温い風がそれでも頬を冷やしてくれる。
「此処ならゆっくりできんじゃねぇかと思ったんだよ」
あぁ、反応が怖い。
言いたい事は全部言えた筈だ。
でもそれは、あくまで焔椎真の話。
夕月はどう思っただろうか。
「おい、何か言…」
反応の無い夕月の方を振り向けば、俯いたままでじぃ…としていた。
「…俺、ヤバい事言ったか…?」
何か話さなければと慌てて話していた。
自分の言ったことを覚えていない。
ついさっきの事なのに、思い出そうとしても思い出せない。
この自分の短絡的と言うか、直情的な性格を何度後悔したか知れない。
『いえ…、』
ようやく顔を上げたかと思えば、その顔は真っ赤で。
「夕月?」
『いえ、違うんです』
「え?」
『僕、嬉しくて…』
自分の話した事が悪い事ではなかったと分かったのは、暫くしてから。
途切れ途切れに話す夕月に、いつもなら“はっきり喋れ”とか言うのだが…今回に関しては、自分のせいでもあるような気がして、それを辛抱強く待った。
『えっと、』
中庭は、大して人がいないし静かだ。
それでも校舎から響いてくる生徒たちの声に消されてしまいそうな程、小さい声。
『ずっと、僕も思ってたんですけど。
きっと…僕だけかな、って思って…』
『ゆっくり、お話がしたかったんです。焔椎真くんと、僕も』
「でも、さっき落ち込んでたろ。」
『それは、やっぱり皆さんがいないと静かになりますし…。でも、』
『でも、焔椎真くんにそう言ってもらえた事が嬉しかったのも本当で』
一歩、二歩…と焔椎真に近づいてゆき、目の前に立つと、自分よりも背の高い焔椎真を見上げて満面の笑みを見せた。
『だから、食べましょう。2人で』
「――おう!」
いつも皆と一緒で、凄く楽しい。
それは、きっと皆も同じ。
だけど、それと同時に皆の思う事もある。
大事な存在と、ほんの少しでも同じ空間にいたい。
自分を見て欲しい。
できれば、
ずっと、ずっと。