A

□肆
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桜が舞う中で、彼はとても優しく笑った。





『もう寂しくない?』
「え?」
『最近、ナツメはいつも笑ってるわ』



暖かな風が吹き、桃色の丸を模った桜の木からは桃色の花弁がふわふわと舞っていた。



「――最近は色んな事を話すようになったよ」
『…そうね。』
「そこにはハルも入ってるよ」
『私?』
「こうやって会いに来てくれる」



すぐ隣にいるナツメは私をそっと触った。



『な、なに…?』



慌てる私に、ナツメはただ笑みを見せた。



『何処か、変かしら…?』
「違うよ」
『何かゴミでも付いてた?』
「違うって」



ナツメは、笑顔。
私の頭に手を置いたまま、背の低い私を屈みこむ様にして眺めていた。



『……私はどうしたら良いの』

「ただ、その顔を見たかったんだ」



ナツメの口から出てきた言葉とは思えないような科白。
どちらかと言えば、ナツメがたまに会っているナトリとかいう男が言いそうだ。



『その言葉を受けて、尚更困るわ』



いつもと何処か、雰囲気が違うように見えた。



「ごめん」
『謝る事でも、無いけれど』



優しくて温かくて、それは何も変わらないけれど…そうでは無くて。



『ガッコウで、何か会ったの?』
「何も無いよ。
最近は色んな人と話すようになったし、寂しくなんかないよ」
『なら、』



私の頭上に咲く桜を見上げて、ナツメはまた笑った。



「ハル、」
『なに?』
「ハル」
『…聞いてるわ。』
「ハル、」



その顔がとても愛おしくて。



『…ナツメ、本当にどうかしたの?』



思わず、触れてしまった。

触れないと、決めていたのに。
そうしなければ…きっと取り返しが付かなくなる。自覚してしまう。



「今日は風が強いから、学校でも桜がたくさん舞っていたんだ」
『…うん』
「ハルを思い出したんだよ」
『…どうして?』
「どうしてかな…。
ハルって名前もそうだし…ハルだから会いたくなったんだ」



私達は超えてはいけない。
分かってる。
だから…それ以上、言葉には出来なかった。



『ナツメ、』
「ん?」
『もう少し此処にいたいわ』



でも、言葉にしなくても分かってる。











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