A

□陸
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あの時、「はい」と返事をしていたら…

きっと…あの人は独りにならなかった。




「それでさ、」
「…千紫郎」
「ん?」




僕の選んだ道に後悔は無いはず。

だけど…




「おい、夕月」
「…夕月くん?」




だけど、あの時を思い出さないなんて、無理だ。




「夕月!」

『…あっ、はい』



いつの間にか吸い込まれるように見ていた。
満開の、桜。
雪のようにふわふわと舞い降りてくる桜の花弁を眺めているうちに、意識は1年前の、あの日に。



「どこか悪いのか?」
「少し顔色が悪いね」
『え…?』



差し出された手を、拒んだのは僕だ。



「体調悪いのか?」
『いえ!大丈夫です』
「本当かい?」
『はい。ご心配おかけしちゃってすみません』



自分の居場所を決めたのは、僕だ。



「……おい、」
『はい』
「嘘をつくな」



今、目の前にいるのは黒刀くんと千紫郎くん。
帰れば、ルカ達も待っていてくれる。

それを選んだのは、僕なのに。



『そんな事は、』
「分からないと思っているのか」
「黒刀!そんな言い方しなくても、」
「いいや、こいつは分かってないんだ!」



誰かに決められた訳では無いはず。
なのに…
思い出してしまうんだ。



「別に思い出したって、考えていたって良いんだ」
『…え、』
「お前が何を考えてるか分からないとでも思っているのか?」
『そ、れは…』
「今までずっと一緒にいたんだろ?
どうして消し去ろうとするんだ。覚えておけば良い」



でも、それじゃ…きっと駄目なんだ。
いつかは対峙する。
戦わなければいけない。
守られているだけじゃなくて、戦うんだ。
そう、決めたんだ。



「今のお前があるのは、あいつのお陰でもあるんだ。僕は…僕達はそれを否定なんかしない」



奏多さんと、戦うって…決めた。



「夕月くん、」
『…はい』
「俺も黒刀も…ルカ達も誰も咎めたりしないよ。ただ1つだけ、嫌な事があるんだ」
『………』
「君が彼を想い、俺達を想い、悲しむ事。
全てを話す必要は無いけれど、色んな事を背負って、罪を感じる必要は無いんだよ。それが君の優しさかもしれないけど…俺達は君が大切なんだ」



いつまでも悩むのは止めるって決めた…筈だったのに。



「忘れないで、俺達がいるってこと」



いつまでも、この優しさに甘えてしまう。



『…ありがとうございます』



強く、強くならなきゃ。



「それでなんだけどさ、」
『はい』
「きっと夕月くんは聞こえてなかったかもしれないんだけど、」
『?はい、』
「花見、行こうか」

『え…?』



守りたいのは、僕も同じなんだ。
皆で戦って、いつものように、また明日を迎えていく為に。



「お前が行くならの話だけどな」
「勿論ルカ達も連れてさ」



笑っていたいから。



『はいっ』










  

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