A

□かなた
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誰かの為に、役に立てる何か。

ずっと探していたんだ。




役目はある。

…その為に此処にいるんだし。



でも、そうじゃなくて…
与えられた使命とは別に存在意義を示したかった。





自分が、自分である為に。





それを果たせた時、

気持ちが少しだけ安らかになった。














…――自分を呼ぶ声が聞こえる。



幾つも、幾つも、
歌うように重なって。





皆を残すことになるけど、きっと大丈夫。






……身体、が冷たくなってきた。
視界は…赤以外、霞んで。


ルカに優しく抱き上げられた、
僕の身体は、少しずつ感覚を失って、まるで飛んでいるようだ。





――自分を呼ぶ声が聞こえる。





それに合わせるように、
懐かしくて、愛おしい、あの人の声も。


共に暮らして、
共に成長して、
掛け替えのない人だった。

進むべき路は、全く別のものだった。

けれど、



けれど。







ごめんなさい。

あなた達はずっと待っていてくれたけど、
これが最善の選択だと思うんだ。




もう、大丈夫ですから。
幸せ…ですから。


どうか、あなた達にも幸せが来ますように。






共に育ってきた筈の彼は、本当にひとりになってしまっていて。

やっぱり、見過ごす事なんて出来ない。




地面に横たわる彼に、
ゆっくりと手を伸ばす。

彼はもう動かないけれど。






『――……か…な……た…さ、ん…』





さようなら。

ごめんなさい。












  

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