A

□つくも
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声が、聞こえてくる。




哀しいものが多かったりするけど…そればかりじゃない。

幸せそうな声も増えてきた。






「だから、大丈夫だよ」




十瑚ちゃん。
それに、ルカ。

思っているよりも、きっと強いんだよ。



心配で、大切で、愛しくて、
壊れそうだけど、

決して壊れる事はないんだ。




「それでも、」




――うん、そうだよね。
  十瑚ちゃん。


それでも、
大事にしないと、

きっと怖いんだ。
自分達が、怖いんだ。


もし…壊れたとしたら、

そんな、もしもの話が。




「十瑚ちゃん、見て」
「え?」




だけど、
声が、聞こえてくる。

あったかい声が。






「あ!十瑚ちゃん、九十九くん!」




雪解けの季節。
不思議だけど、心まで暖かになる。




「見てください!
桜の木に蕾が出来てるんです」




雪解けがそうしたのか、
それとも、
夕月が温かいから、そう感じるのか。




「もう春ですね」




嬉しそうに笑う、夕月の顔が…あまりにも、




「…十瑚ちゃん?」




嬉しくて、
心のほんの少しの隙間にも染み渡ってきて。




「九十九、」
「なに?」

「絶対に、守っていこうね。夕月ちゃんを」




十瑚ちゃんだけじゃなくて、
俺も涙が出そうになった。




「――そうだね」






声が、聞こえてくる。

温かくて、
優しくて、
大切な、あの人の声が。













  

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