A

□ルカ
1ページ/1ページ

 




月の明るさに、
空の暗さがはっきりと映る。




『ルカ、』




自分を呼ぶ声。
その声に、思わず口元が緩んだ。




『こんな夜遅くにどうしたの?』
「お前も、」




まだ空に月は昇り切ったばかり。

ルカの主は、眠りに就いたばかりの筈。

なのに、カーディガンを羽織り、自分の隣にいる。
それだけと言えばそれだけなのだが、まだ疲れは癒えていない筈なのに。




『僕は…――何だか、眠れなくて』




儚げに笑う理由を知っている
眠れない理由も知っている

…ひとり でいたくないのだろう。

その理由も、分かる。




「無理をするな」
『え…?』




月が、自分達を照らす。
互いの顔がはっきりと見える。

ほんの数時間前まで、戦いの場にいた。
それ自体は、もう当たり前の事と割り切れている。
…そこに、“奴”が現れなければ。




『……大丈夫』




けれど、夕月の瞳を覗けば、優しく笑んでいた。




『大丈夫だよ』




心配そうに覗き込むルカに、夕月は苦笑した。




『ごめんね。いつまでも、心配ばかりかけていて』
「そんな事は、」

『――解ってるんだ。
もう、奏多さんは戻ってこないし…この戦いを終わらせるって決めたのも自分だって事も』




だから、もう平気だよ


ルカの正面に立ち、自分よりもずっと背の高い視線を見上げた。

彼の後ろに咲く月と、正反対の色。




『…眠れなくて…窓から月を見てたんだ。そしたら、余計に目が冴えちゃって。…それで、中庭を見たら、ルカがいたんだ』
「ユキ、」

『――だから今度は平気だよ』



1人納得する夕月に、ルカは不思議そうに見つめた。




『今度は眠れると思う』




そう言って、笑って、二度目の“おやすみ”をして、部屋に戻って行った。

それを見送り、ルカは自分を照らす月を見上げた。


…自分は要らない。
あの子にさえ、先を照らす光があるなら。



どうか、

どうか、あの子を、
ずっと照らし続けていてくれと、


願うばかり。









  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ