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□ふたり
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「夕月、」
終業のチャイムに、教室は騒つき、賑やか。
夕月は教科書を鞄にしまっている所だった。
何なら、まだ先生も教室を出る前。
夕月の机の前には、もう彼の姿があった。
『今日は黒刀くんと一緒に帰れるんですね。久しぶりだから嬉しいです』
にっこりと笑い、普通なら中々出来ないだろう言葉を紡いだ。
「別に…黄昏館じゃ毎日顔合わせてるだろ」
素っ気ない返事に聞こえても、顔を見ればそうではないのだと分かる。
『お待たせしました』
鞄を締め、黒刀の前に立つと、また嬉しそうに笑ってみせた。
「忘れ物は無いか?」
『はい!』
まだ転校してきたばかりの黒刀は、夕月や九十九達以上に人の視線を集めている。
決して嫌な意味ではなく、大体が惹かれているようなものなのだが…
『あの、黒刀くん…』
「…何だ」
黒刀には鬱陶しいだけのようだ。
『あ、えっと…』
「何だ。言いたい事があるなら言え」
『……あ、そうだ。
今日は黒刀くんお一人なんですね』
あまりにも眉間に皺を寄せ、ドス黒いオーラを出しているからどうにか話題を変えようと思ったのだが、どうやら失敗のようだった。
「学校の前に千紫郎がいる」
別に千紫郎が嫌な訳では無いのだろうが…何故か不機嫌のまま。
隣でじぃ…と見ていると、気付いたのか、
「何か都合でも悪いのか?」
『そんな事ないですよ!ただ…黒刀くん、僕と帰りたくないのかな、って』
「はあ!?」
廊下中に響き渡る程の声。
さっきまでとは違う理由で、辺りの視線が黒刀に集まった。
「何を言ってるんだ!?」
『いえ、違うなら良いんです』
「良い事無いだろ!」
夕月は人の事になれば優しく、大らかな心でいられるのに、自分の事となると若干自虐的というか、マイナスで厳しくなりがちである。
今もきっとそんな事を考えていたのだろう。
「……僕は、こういう日があって良かったと思ってる」
『――え?』
「こうでもなければ、2人にはなれないからな」
黒刀の顔は次第に赤く染まっていく。
普通なら言葉にしないようなもの。これじゃ、まるで恋人のようじゃないか。
「…すぐ千紫郎も合流するが、少しでも、あったら良いだろ」
けれど、そういう事なのだ。
皆でいるのは(時に煩すぎるのだが)賑やかで楽しいかもしれない。
でも、そういう事じゃない
大切な人となら、きっと誰だって、
ふたり になりたい筈。
『あの、』
「…ん?」
『僕も、です。
皆さんといる時もすごく幸せですけど…こうやって黒刀くんといる時も、』
夕月とふたり、 なら尚の事。
『きっと幸せなんだろうなって、思っていたんです』
だから、これからもっと増えたら良い。
ふたりの、時間。