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□夕立ち
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「夕月、あそこにしよう」



つい少し前まで晴れていたのに。
突然の夕立ちに下校中だった夕月と愁生はびしょ濡れになった。
小さめの商店の前にバス停があり、それには親切に屋根がついている。そこで止むのを待つ事にした。



「きっと直ぐ止むよ」
『はい』



そうは言っても、季節はまだ桜の咲く前。
横を見れば、明らかに我慢している姿があった。



「――ほら、」
『え?』
「少しは違うと思うよ」



自分のしていたマフラーを掛けてやると、(予想はしていたが)力いっぱい遠慮してきた。
それは勿論、愁生を想っての事だが、愁生からすれば夕月を想ってのこと。



「俺は平気だから」



――ね?
と顔を覗き込めば、頬を赤らめて笑った。



『あったかい、です』
「良かった」



夕月も愁生もそんなに沢山話す訳ではない。雨音が大きくなった気がして、通りを見た。



『――愁生くん、』
「なに?」
『マフラー…あったかいです』



何を思い出したのか、
マフラーに顔を埋めるようにして、本当に小さい声で、呟いた。



「……夕月、」
『…はい』
「歩いてみる?」
『え…?』
「たまには濡れてみるのも楽しいかもしれないね」



突然の愁生の案に、夕月は目をぱちくりとさせた。
そんなものお構い無しと、愁生は夕月の手を取り走り出した。



「帰ったら風邪引かないようにしないとね」



言ってる事と、してる事がまるで正反対で。
しかも、それをしているのが愁生というギャップもあって。



『愁生くん、』



胸が弾んだ。



「ん?」

『――何でもないです』









  
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