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□未練と夏空
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ただ、想っている。
「どうしたの?夕月」
『え?』
「ボーッとしてるよ」
下校してる最中。
梅雨が明けて、夏本番。
暑さが増した気はする
けれど、そのせいでは無いだろう。
夏休みも近いとはしゃぐ十瑚の話を、笑って聞いてる。九十九の差し出したお菓子を嬉しそうに受け取ってくれる。
いつもと変わらないようで、全然違う。
「何か悩み事?」
『いえ!大丈夫です』
そう答えられても、一度覚えた違和感は消えない。
触れそうな程の近い距離で九十九は夕月を見つめた。
「つ…九十九、くん…?」
息が掛かってしまいそうな、その距離に夕月は思わず息を止めた。
…と言ってもそんな事長く続く訳もなく、一歩後ろに下がる。
「あ、逃げた」
『逃げたって…』
飄々としている九十九と、顔を真っ赤にしている夕月。それを交互に見ながら、
「…今のは、夕月ちゃんが悪いよ」
十瑚は呟いた。
「嘘、ついたって分かるんだから」
「それが俺達を想ってくれたものだとしてもね」
――…神の耳、なんて聞こえのいい例えだ。
なぜなら、九十九くんは苦しむのだから。
聞こえた他人の心の動きに、己の心を痛めるなんて。
『本当に、何でも無いんです』
「本当に?」
夕月は精一杯の笑顔を作って、一歩、九十九に近寄った。
『はい。』
コツン、額に当たったのはあたたかな、九十九の額。
心が、揺れないように目を閉じた。
「――じゃ、信じる」
――…神の耳、なんて無ければ良いのに。
そうすれば、感情を閉じ込める必要も無かった筈。
きっと…もっと、彼を想えた筈。
― ア ト ガ キ ―
十瑚が空気…!
そして夕月が未練タラタラの腹黒。
九十九がいちばん純粋。
って話でした。
あ、もちろん想い人は奏多さんです。
それで冒頭に戻るんです。
ただ、想っている。
ルカ達を裏切りはしないけれど、想いは消えませんよ、と。
あの人への想いは消えないのです。
ただ、それだけ。