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□空に咲く花
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遠慮がちにノックされた扉。
夕月は椅子から立ち上がると、ゆっくりと其方へ向かった。


『――…』


ノブに触れる前、深呼吸をした。
きちんと、笑顔が作れるように。


『どうぞ、ルカ』
「…あぁ。休んでいたのにすまない」
『大丈夫だよ。本読んでたんだ』


部屋にルカを迎え入れると、夕月はルカの後ろを歩いた。
ほんの数歩だけれど、ただその背中を見ていたかった。


「平気か?」
『え?』
「あいつらも心配している。最近、夕月の様子がおかしいと」
『ううん、何でもないよ』


ゆっくりと振り向くとルカはじぃと夕月を見ていた。
それに耐えられずに夕月はいつも顔を赤らめて視線を逸らす。
けれど、この日は違かった。
顔色変えず、ただ避けるように逸らされた。


「俺を見て言ってくれないか」


別に意地悪をする気も、追い詰める気もない。
ただ、


「夕月、」
『……なんでも、』


せめて自分には隠さないで欲しい。


『何でも、無いよ』
「――…」
『本当に、何でも…無いんだ』


そう言い終えて、また俯く。
何もない訳無い。
大丈夫な訳無い。
それでも、彼がそう答えるのは分かっていた。


「夕月、」


数歩離れた距離。
それ以上、もう余計な事を口にするのは止めた。


「おいで」


ただ夕月の方に差し出した手。
それだけで、緊張していた夕月の顔は僅かに緩み、そしてルカの手を取った。

一歩、二歩…と近付き、触れる程の距離。


『ルカ、』


力を込めて、手を握ったのはどちらからだったのか。
何かを言おうとして、それを涙が邪魔をして、夕月はまた俯いてしまった。


「大丈夫だ」
『……っ、』
「俺は近くにいる」
『ル、カ…』


そっと頭を抱き寄せると、何度も何度もルカの名を呼んだ。


「俺は、此処にいる」








  
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