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□壱
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桜の木がほんのり色付いてきた頃。




「鵺依、」



私はまだあの場所にいた頃。



『――何してるの?』
「そっちこそ」
『蕾が開くの待ってるの』
「…いつから?」

『昨日の夜から』



その答えに声を出して捲簾は笑う。
そこまで可笑しな事を言ったつもりは無くて、話すのを待った。



「もう丸一日待ってんのか」
『そうだけど』
「悟空待ってたぜ」
『…そう』



悟空が待っててくれる事や、金禪や天蓬が心配してくれる事は分かってる。
それでもほんのりと色付いたばかりの桜を眺めていたのは、待っていたから。



『私、』
「んー?」

『…私も、待ってた…のかも』
「蕾が開くのをだろ?」
『違くて』



捲簾は来てくれると、期待していた。
桜の花はまだ咲かない。
その時期では無いから。
それでも待っていたのは、きっと桜では無かった。



『違わないかも』
「…なにそれ。」



だからと言って、そんな事、決して口に出しては云えないけど。



『――いつか私は下界に帰るのよ』
「あぁ、そうだったな」
『…下界にも桜は咲くの』
「…噂じゃ下界のが綺麗らしいな」
『そう見えるのは、下界が綺麗だからじゃない?』
「あー、かもなァ」



私と捲簾には、決して埋まらない距離がある。



「だから良いんだな」
『桜が?下界が?』




埋めてはいけない距離がある。






「お前。」












  

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