@

□弐
1ページ/1ページ

  



『知ってる?』




ある暖かな夜。
私は悟空を誘い出した。
場所はいつもと同じ、大きな桜の木の下。



『地に落ちるまでに、桜の花弁5枚掴めたら願い事が叶うんだって』
「マジで!?」



悟空を誘ったのは、ほんの気紛れ。
新月で真っ暗な世界に、灯りが欲しかったのかもしれない。



『……風吹いてないけどね。』



悟空の声が聞きたかった。



「無理じゃん。」
『これを口実と言うのかしら』
「へ?」
『――何でもない』



理由を付けて本当は声が聞きたかっただけ。



「鵺依、なんか変。」
『そう?』
「うん。だって、鵺依が俺を呼んでくれるってないだろ?」



真っ直ぐで、私よりも明るい金の瞳は綺麗。
幼いけれど、しっかりと前を見据えた声。
遠慮なんてせずに見上げてくる目に…否定の色は感じない。



『迷惑だった?』
「全然!だけど…」
『だけど?』
「どうしてだろって思った」



憧れる。



『…悟空は優しいからね』
「金禪も捲兄ちゃんも、天ちゃんも優しいよ?」
『…言葉では、なかなか説明は難しいかな』



ひらり、ひらりと1枚の花弁が目の前を過ぎた。



「ふぅん…」
『ただ言えるのは、』



悟空の目に、それは映らなかった。
私の言葉を聞いていたから。
私なんかの言葉だけを、見ていてくれたから。



『悟空とふたりでいたかったの』



さわさわと音がした。
草の、擦れる音。
下ろしていた髪が靡く。



『だから、悟空、』



音は大きくなる。
顔を上げると桜が揺れていた。



『花弁を5枚、だよ』



分かってくれるかな。



『競争ね!私1枚取ったよ』
「え、ずっりー!」



悟空との時間は大切で、掛け替えの無いもので、手放したくないの。







…願い事は、叶わなかったけれど。














   

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ