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□届かない手紙
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テガミを、“彼”に託した。




「宛先には…何も、ありませんでした…」




数週間後、私の元へ戻ってきた“彼”の手にはまだテガミ。
絞り出すようにそう言うと、溢れる涙を拭った。




「すみません…っ」

『貴方が謝る事じゃ無いよ』




不思議と涙は出てこなかった。
代わりに泣いてくれる人がいるから。




『――…ありがと…』




泣いてくれて。




『そのテガミ、本当は何も書いて無かったの』




何を、どんな気持ちを、どんな文面で書いて、届けて良いか…判らなかった。




『きっと、あの人はもう居ないって…分かってたから、貴方に確認して欲しかっただけかも』




知ってた。




『貴方は知ってるでしょ?
あの人も、テガミを届ける仕事をしてた』






ある時、あの人に恋をした。

テガミを届けるという仕事をしている彼とは、めったに逢えなかったけど…






“配達です、僕からのテガミ”






そんな彼が、好きだった。
逢えない日々を鮮明に綴っていたテガミは、もちろん彼の字。
日々増えてく手紙に封筒はパンパンだった。


逢えない日々は、1枚ずつ読んで、一緒に過ごしてるようだった。





『大丈夫、逢えないのはいつもの事。』



あの人は言ってた。

もし自分にテガミをくれる時は“彼”に頼め、と。




毎月1回来ていた、あの人からのテガミは半年途絶え…代わりに出した私の最初で最期のテガミ。




“彼”に頼んで、良かった。






『ありがとう』






あの人の最期のテガミは、“彼”だった。

届けてくれて、届いてくれて、ありがとう。






     

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