DEATHNOTE

□気づくのに遅いなんてことはないはず。
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冷えた手に息を吐きかける
春といえども、まだ夜は寒い。
寒がりの私に手袋は必須だ。

(ねえ、竜崎はそのビルから出ないからこの寒さも分からないだろうね。)

本人に言ったら絶対に「皮肉ですか」と言われるであろう台詞。
そして私はきっとこう受け答える。
「皮肉じゃない。本音だよ。」


車のヘッドライトが目に痛い。
もう少し、ライトを控えめにしてくれたらいいのに。

なんて大それたことを夢みてしまったんだろう

手元の携帯のイヤホンから流れるお気に入りの唄。
本当だね。
私は彼に、なにを夢みていたんだろう。


「別れようか」と元彼に言われた苦々しい経験が甦る。
竜崎はそんな選択の余地もない言葉を、私に投げた。


「別れましょう」


それが30分前の話。
それからはあのビルを抜け出て、てくてくと家路を歩いている。
竜崎からあのビルに移住を求められたとき、私はアパートを引き払わなかった。
それがなんたる皮肉か、この場面になって役立つなんて。

(私は、いつもそうだ)

常に保険をかけている。
なにかが無くなっても自分が最低限以上傷つかないように、なにかどこかで備えている。

(竜崎は別だったんだけどな)

あの人だけは別だった。
居なくなったら、きっと私は狂ってしまうんだろうな。
そうぼんやりと予感できるくらい、好きでいたつもりだった。
所詮人間だ。
想いが通じ合ったとしても一時で、それが男女ならなおさらということか。
あんまりにも突然だったから、私はいまだに冷静でいられる。
けれど。

この交差点を抜けたらアパートに着くのに。
この交差点を抜けたら、私は自分を慰めることを始められたのに。

私は、もと来た道を引き返していた。
走って走って、髪の毛が乱れることも、すれ違う人がいぶかしげな顔することなんて気にせずに。


(私、まだこんなにあなたを想ってる。)


竜崎、あなたから離れる前に、あなたととことん戦わなきゃ気が済まない。
傷ついた自分を慰めるのは、まだ早いわ。

覚悟して、竜崎。



end
080428

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