パロ部屋

□シングルマインディッド
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「俺さ」
阿部は、真剣な眼差しで俺を見つめたんだ。
「西浦行くんだ」
中三の夏だった。
阿部の声は俺の心に波紋を残す。


シングル マインディッド】


俺達は受験シーズン真っ只中の受験生で、毎日将来役に立つのかも分からない公式を必死に覚えていた。
「明日も明後日も塾、勉強勉強もう嫌だ」
なんて愚痴を漏らす俺に、阿部は何でもないように言った。
「受験生なんだから、当然だろ?」
潔い台詞に、俺は机の上に突っ伏した。
「そーなんですけど・・・」
阿部は拗ねて言う俺の頭を軽くポンポンと叩く。
「お前頭いいんだから、大丈夫だろ」
にっと笑う阿部はかっこよくて、俺は顔を赤くして阿部の体温が残った頭を抱えた。
「何を確証に…」
俺の呟きは乾いた空気に消えた。
阿部はかっこいい。
惚れた弱みかも知れないが、とてつもなく。
例えば、笑うと垂れてる目がもっと垂れて犬みたいになる、とか。
黒い肌からのぞく白い歯は綺麗で、芸能人顔負けだったり。
っま、そんな想いも一方通行だけど。
「野球やりてぇな」
鞄をごそごそ漁ってると思ったら、阿部は白球を取り出した。
「そうだね」
阿部から放たれた小さな球は綺麗な弧を描いて俺の手の中におさまる。
握り慣れた球だ。
それを見つめている内に、シニア時代の思い出が溢れてきて、心がぎゅっと潰れそうになった。
やっぱ野球好きなんだよな、と俺が口を開くと阿部はすっげー嬉しそうに笑った。
「だよな」
俺が山なりに放った球を阿部がしっかりキャッチする。
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