はるかぐお題

□先輩と後輩
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軽いストレッチのあと、加具山と榛名は投球練習に入った。
加具山は町田と、榛名は秋丸と練習を始めた。
軽いキャッチボールから入り、肩が慣れてきたら段々球速を上げていく。
加具山が投げたボールが町田のミットに食い込む。パンッと一際良い音がした。

「ナイスボール!」

町田の言葉に加具山は満足そうににっと笑った。
その様子をじっと見ていた榛名は面白くなさそうに声を出した。

「加具山さん、今日調子いいっすね」
加具山は素直にうんと嬉しそうに微笑んだ。
「なんか、今日投げていて気持ち良い」

町田から投げ返されたボールの縫い目を指でなぞりながら鼻歌でも歌い出してしまいそうな加具山の様子を見て、榛名の機嫌は一変して自分の事のように嬉しくなってしまう。加具山の喜びはまるで自分の喜びだと断言出来てしまうほどだろう。

「良い事っすよ」

榛名の言葉に加具山は少し照れたようにはにかんだ。

「榛名!」

秋丸の声に振り返ると、秋丸は既にミットを構えた姿勢で榛名の投球を待っていた。
榛名は折角の加具山さんとのコミニケーションの時間を…という舌打ちはなんとか押さえ込み、秋丸を睨みつけた。
名残惜しそうに加具山に視線を送ってから、榛名は全力投球を試みた。
小気味の良い音を立てボールがミットに吸い込まれたが、榛名は浮かない顔だ。

「今日はなんかボールに力が乗らないんすよね〜…」

溜息交じりの科白に、加具山は口を開いた。

「もう少し早くボール離した方が、」
「この辺っすか?」

加具山のアドバイスに榛名は真剣な顔で投球ポーズを取る。

「うん、そのくらい」

秋丸がミットを構え直したのを確認してから榛名はボールを放つ。
パシッと響く音に続き、秋丸の「ナイスボール!」の声。

「確かに」

投げ終えた榛名の顔はいつにもなく清々しく晴れていて、先ほどとは大違いだ。

「だろ」

加具山もそんな榛名に満足そうに笑い掛けた。




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