パロ部屋

□シングルマインディッド
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「お前さ、」
阿部は手の中の球をじーっと見つめながら言った。
「野球続けるのか?」
俺は阿部の横顔を見つめたまま言った。
「続けるつもり、阿部は?」
球が宙を舞い、阿部の手の中に戻っていく。
「やるよ」
俺はやっぱりと心の中で呟いた。
阿部はシニアで野球をしていた。
そこでハルナという投手と色々あったらしい。
阿部の体には痛々しい傷跡が絶えることなく付いていた。
今思い出すだけでも、俺は辛くなった。
阿部の事だけれども。いや、阿部の事だからか。
目を逸らしたくなる様な事があっても、それでも阿部は野球をやめないだろうなと感じていた。
だってそれ以上に好きなのを知っていたから。
「首振らない投手がいいんだけどなぁ」
阿部は歯を見せて、にっと笑った。
俺は何も言えなくて俯いた。
「俺さ、」
少しの沈黙の後、阿部は口を開いた。
「西浦に行くんだ」
「西浦?」
顔を上げ、阿部の真剣な眼差しを受ける。
西浦・・・聞いた事ない学校だった。
「あぁ、聞いた事ないだろ」
小さく頷くと、阿部は更に瞳を輝かせ熱く語る。
「今年から硬式になるらしくて、だから俺等が初めての部員になるらしい」
「コーチはいるの?」
「いるらしい…詳しくは知らないけど」
阿部は俺の目を覗き込んできた。
「おもしろいと思わないか?」
「う・・・ん」
「上からの圧力もなくて、俺等が好きな様に野球ができる」
俺は言葉を失った。
阿部は本気で言ってるのか?
こんな生き生きした表情で冗談が言えるなら、阿部は立派なペテン師になれるだろうと思った。
「賭け?」
中学生の俺達が高校野球の何を知っているだろうか。たかが知れてる。
確かに、有名高校で日の目を見ず飼い殺されるより、活躍できるチャンスはあるかも知れない。
だが、名のある高校は施設も監督も仲間も何もかも揃っている。
今年出来たばかりの部で、施設も十分じゃない、無名の監督、仲間だって9人それぞれのポジション集まるかも分からない。
そんな危険な賭けを阿部はやろうとしているのか。
俺の呟きに阿部はちょっと怯んだ。
「そうかも知れないな」
阿部は不意に視線を窓の外へ向ける。
真っ赤な夕焼けが見えた。
「一からやり直したいのかも知れない」
阿部の本音が漏れた気がした。
「うん」
決めた。
俺、お前に付いてくよ。
本当は高校は違う学校行ってさ、阿部の事忘れようと思ってた。
けど、今の阿部見てらんない。
だから付いてって、支えてあげる。
振り向いてくれなくていい。
これは俺の自己満足。
「俺、西浦行くよ」
阿部の視線がぱっと俺に移った。
「本当に!?」
嬉しさと驚きが混じった表情で阿部は言う。
少し興奮しているのか、声が大きい。
「お前と賭けするのも悪くないかな、と思って」
阿部はすっげーかっこよく笑ってから、「やった」と言った。
あーあ、そんな顔すんなよ。勘違いしちゃうじゃん。
なんて切なくなりながらも、自分の賛同で阿部が喜んでいるのがすごく嬉しかった。
「栄口」
「ん?」
「ありがとう」
照れくさそうに言う阿部に「ばーか」と笑ってやった。


end.











後書き
再度阿栄、中学から友達設定。
本当は中学→高校阿栄がくっつくまでをシリーズ化させようと思ってたんですが8巻を読んで、何!?二人は受験時からの知り合い!!!という設定を知ってしまい・・・断念しました。
まぁ、阿栄は好きなので中学同クラス設定でいっぱい書いていきたいです。
中 坊 大 好 き だ!!
栄口君は阿部にお願いされると断れない。
好きだから何でもしてくなっちゃう乙女だと思う。
阿部はそれを知っててつけこみます(笑
それでわ。

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