短編

□ぐるぐるメッセンジャー
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放課後、私は部室の机でマネージャーの事務作業をしていた。
目の前では、宍戸が座ってラケットのグリップにテープを巻いている。ぐるぐる。




「宍戸」
「あ?」
「今日誕生日でしょ。おめでとー」
「……おぅ、サンキュ」
「ファンの子からたくさんプレゼントもらった?」
「別に。もらってねーよ」
「嘘つけ。さっきもらってるところ見ちゃったもーん」




私が茶化すようにニヤリと笑うと、宍戸はうるせぇと言って顔を背けてしまった。何故だかご機嫌を損ねてしまったようだ。
テープを巻くスピードが徐々に上がる。ぐるぐるぐるぐる。




「なに?嬉しくないの?」
「そういう訳じゃねーけど…。あんまりもらっても困んだろ」
「まぁ、そりゃそっか」
「それに………欲しい奴からまだもらってねーし」
「ふーん、そう」




宍戸はこちらを伺うようにちらちらと視線を投げかけてくる。
機嫌はもう既に直ったようだ。ころころと気分の変わる男だこと。

…あ、今度はスピードが遅くなった。ぐーるぐる。




「じゃあさ、どんなことされたら一番嬉しいの?」
「んー…いきなり言われてもわかんね」
「例えば、可愛い女の子に『宍戸くん、だいすきです。プレゼントは私です』…なんて真っ赤になりながら言われたら、やっぱ嬉しいもん?」
「はぁ!?」
「嬉しくないの?」
「嬉しいっつーか…。何だよそのベタなギャグは」
「いいから答えんかー!」
「………よくわかんねーけど、それは相手によるんじゃねぇ?」




再びふーんと相槌を打つ私。
宍戸は訳がわからないといったふうに首を傾げる。

だがしかし、今の一言で私の心は固まった。
昨日寝ずに考えていた作戦を実行に移す勇気が今一歩足りなかったのだが、宍戸自身に背中を押してもらったから、私、やってやろうと思います。




「そっか。それなら……」
「それが一体どうした………っ!?」




私は突然立ち上がると、目の前のラケットを押しのけて、驚いて固まっていた宍戸の胸倉を両手でガッと掴んで引き寄せる。
そして、何か言いたげな口元を自分のそれで塞いでやった。

ついにぐるぐるがぴたりと止まる。




















しばらくしてから、私はゆっくりと唇を離す。
けれど、顔は未だ至近距離に置いたままで薄く目を開けてみると、宍戸は目を丸く見開いてぽかんと私を見つめていた。
してやったり、自然と私の口元は弧を描いた。




「ねぇ、宍戸」
「へ……?」
「可愛い女の子じゃなくて悪いんだけど、さっきの、私だったらどう?」
「ど、どうって………」
「『宍戸くん、だいすきです。プレゼントは私です』」
「お、おまっ……!」
「もらって、くれる?」










互いに息が掛かるほどの距離で私は尋ねる。
本当は緊張で手が震えてるけれど、どうかそれには気付かれませんように。










「……………上等」




そう言うと、宍戸は手に持った巻きかけのテープとラケットを床へと投げ捨てた。
そして、胸元を掴んで震える私の手を上からそっと包み込むと、私の頭に手を回して更に引き寄せてから、額をこつんとぶつけて、ニカッと強気に笑ってみせた。




















ぐるぐる
メッセンジャー





















(そんなに真っ赤な顔で言われても迫力ないよ)
(…激ダサ)




















(一言)
大事なラケットなんですから投げちゃいけませんよ、宍戸さん!
一日遅れたけど、誕生日おめでとうございました^^









2009.09.30.

 

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