・小説…参

□香り
1ページ/4ページ






ふわッと、口から吐き出した紫煙はゆるりと空気に溶ける。霧散してゆく様を、甘い蜜色した瞳でぼんやりと眺めてはティキはいつもの定位置のソファで煙草を吹かしていた。


けだるい空気はこの甘い香りのせい。普段なら煙草やら、酒、とにかく『甘い』なんて言葉は無縁な筈のソカロの部屋なのに今日ばかりは違うらしい。あまりの甘ったるさに片側の頬は当人の意志を無視してヒクヒクとした痙攣を繰り返す。


とにかく『気持ち悪い』 そんな言葉しか今のティキには浮かばなかった。ソカロの部屋ならこんな日でも、甘い香りを嗅がなくてすむ。そんな考えは甘かったらしい。部屋の隅にチラリと視線を流せば山のようなチョコ。









「………腐っても元帥か」








怪獣だの戦闘民族だのいわれた凶悪元帥ながら、流石にズバ抜けた戦闘能力を持つ元帥。教団の女達も放ってはおかないらしい。ソカロには不似合いなピンクやらピンクやらピンクやら…






「…………」







とにかく余りに似合わないラッピングの数々にティキに頭痛が走る。しかしながら、部屋を留守にしている当の本人を思い浮かべると女達に対しては『物好き』なんて言葉が過ぎるが自分もそのうちの一人。まさに『物好き』だったりする。









煙草を手近な空ビンの中に捨て、ティキはソファから無言で立ち上がる。視線の先には、恐らく本人の許可無く置かれたであろう部屋の隅に置かれたチョコの山。そのチョコを眺めては腹の奥底からどす黒い感情が噴き出す。









次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ