□春待ち苺st1
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朝起きたらこの世界には一番大切な人がいなかった。



春待ち苺 st.1



いつもの朝。晴れていたけど夜に一気に降ったのか一面雪景色。

これは学校に行くのが一苦労だななんて考えながら部屋を出て支度を整える。

一階には既に皆起きていて妹の夏梨が黙々とご飯を食べ、遊子が遅い!と

開口一番俺に言う。そしてこの家で一番うざい男がうざい口調でうざいスキンシップを

かまそうとしていたので、蹴り飛ばして黙らせる。



いつも通り。



少し凍った道を水色と歩く。時間はいつもよりかかったが何とか時間内に学校に

着き、教室に入るといつものメンツが揃っている。


「おはよーいっちごー!」


あぁ、ここにもうざい奴がいたんだった。

腕を伸ばして此方に猪突猛進してくる啓吾にチョップを食らわしそれを避ける。

ダメージはそれ程ないのに無駄に大きいリアクションをとって泣いている彼にため息一つ吐く。



お昼もそんな調子で一緒に食べて、授業も何事もなく、帰りも水色と。



「水色、ごめん、今日もちょっと用があるから」



いつもと同じだったのはそこまで。



「え?一護どっかに寄り道するの?珍しい」


「…?」

「わかった、じゃあまた明日ね」

「あ、あぁ」


いつもなら「そっか、頑張ってね」とか「わかった」と言った後笑顔のまま別れるのだけど。


何やらつっかえが残ったまま、あの店へと向かう。


店は珍しく開いていた。

中に入るといつもの駄菓子、日用品、判別不可能な品物がある。


そして、


「こんにちは、テッサイさん」

テッサイが店番をしていた。

挨拶を一声かけると何故か不思議な表情をされ、

「失礼ですがこの店には何度か来られましたか?」

「え、」



それはもう毎日迷惑だろと言わんばかりに住み着いていたんですが。

でもその言葉は目の前の表情で飲み込まれた。

嫌な汗が伝う。寒いのに。

「…えっと、ここには貴方の他にどなたがいますか?」
恐る恐る嫌な予感を抑えながら問いかける。

すると不思議な表情からこちらを怪しむ顔に変わり、それでも答えてくれた。

「私とそれからジン太と雨という子供二人で営んでおりますが…」

「…他にはいませんか…?」

「ええ…」




浦原がいない。




店の名前だって浦原商店だっていうのに肝心の本人がいない。



何で?昨日までいたのに。




いつの間に世界は変わったのか。


俺だけ覚えてる。


周りだけ変わってしまった。


俺の気持ちなんか一切無視で。





勝手に。


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