□春待ち苺st2
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春待ち苺 st.2


毎日毎日無意味に町を探す日々。死神達ならわかるかと思って訪ねてみたが

誰も覚えていない。



寧ろ自分も忘れていたら少しは楽だったのに、とさえ時折考えるようになった。

そんなこと思っちゃいけないとわかっている。


でもそう思わずにはいられないほど自分は憔悴している。


あいつがいないとわかったとき、最初は軽く考えていた。

きっとどこかにいるはずだと信じていた。


でも


日に日に不安は募るばかり。

苦しみは増すばかり。


一週間が経ち、もう町内は勿論隣町も探し尽くした。


気が付いたことはアイツに関わった周りの人もいないということ。

夜一サンやコンとか。夜一サンは行方不明のままらしい。


それから事も起きていないと言うこと。ここでの俺はどうやらルキアから力を貰ったのではなく

自然と自分の力に目覚めて、死神代行をしているらしい。


偶然にもルキアがその監視役というか手助けをしてくれている。

他の死神とも普通に親しいようで。そしてあの通行証もあった。


俺は違う世界に来てしまったのか。


それとも世界が変わってしまったのか。


最初の自分だったらこの世

界でも生きていけただろう。


でも今の自分は違う。この世界では自分は生きていけない。




元いた場所へ帰りたい。


帰りたい。






浦原のいた世界に。






とりあえずここにくる前の自分の行動を思い出してみる。

朝も昼もいつも通りであの日も学校帰りに浦原の所に寄り道した。

テッサイさんが出迎えてくれて後でお勧めの和菓子があるからお持ちしますと言われて

奥を勧められた。


「こんにちは、黒崎サン」


「こんちは」


いつもの挨拶。深い笑みとその瞳に飲み込まれそうだといつも思う。


浦原の部屋に入り、今日の出来事をテッサイさんのお菓子を食べながら話して、

暫くしてアイツが


「そういえば明日休みッスよね?」


突然抱きついてきたかと思ったらそう問われ、頷くと

笑みを深くし俺を押し倒し、それじゃあ大丈夫ッスねと一人で勝手に納得して…そのまま…


その後門限前に家に帰って…

…帰って…?


あれ。


家に帰ったっけ。泊まって行ったんだっけ。


その先がどうも曖昧で。


思い出そうとすると頭が痛い。記憶に靄がかかる。


そして思い出せば思い出すほど、寂しくなり会

いたくなる。




もうどうにかなりそうだ。




「一護?」


「え…?」


部屋で宿題をやるつもりだったのにいつの間にか悶々と考えていたらしい。

ルキアが心配そうな不安気な表情で此方を見ているのが理解出来ず訝しむと、


「どうしたのだ?」


「何が?」


「何がって…何故泣いているのかと聞いておるのだ!」


「泣い…?」


確かに頬に冷たいものが伝っていた。





アイツがいないだけでこんなにも弱く脆い。


もう、会えないのかな。


…女々しいな、俺。




心配してくれているルキアを大丈夫だからと言い切り先に寝かせると、ベッドに

倒れ込み枕に顔を沈めて声を殺し、疲れるまで泣いた。





泣いて全てを捨て去りたかった。


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