話
□重病は誰か
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重病は誰か
この時期は嫌いだ。ニュースで毎日天気予報の中にある花粉情報を見ると
もう外に出る気が消え失せる。このまま引きこもってしまいたいくらいだ。
くしゅんっ
へっくし
くしゅんくしゅんっ
「随分と辛そうっスね」
「あ?あぁ、毎年の事だから」
「薬、あげましょうか?」
「え、あんのか?」
「ええ、まぁあるというか正確には今から作るんですけどね」
「じゃあ頼もうかな…」
「それじゃぱぱっと作ってくるので待ってて下さいな」
「ん」
鼻にティッシュを抑えながら目に涙を溜め、こくりと頷く子を見ながら奥へと向かう。
人は厄介な生き物だ。ちょっと重い病気になったらころりと逝ってしまう。
花粉なんてものでもすぐに日常を邪魔される。
花粉症なんて小さいものでアタシの大事な子が涙したり、悩ますなんて耐えられない。
愛しい子を泣かせるのはアタシだけ。
そう、アタシだけで十分。
薬を作り始め、少ししてちょうど研究室にあった鏡に自分が映る。
嗚呼、こんな顔キミの前でしていたらキミはどんな
表情をするんでしょうね。
見てみたいと思う自分がいる。
「重症ッスね」
一言ぽつりと漏れた声は誰の耳に届くことなく壁に霧散した。
fin.2006.3.29