話
□傷に傘を
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いつの間にか桃色の花びらは落ちたまま舞わなくなり、地の色と同化していき桃から緑へと色を変えた。
季節が二つ変わるまでそれは暫くはそのままだ。
そして今、もうすぐあの日。
この子供が絶望の淵に立たされた日。
「一護サン」
「…何」
机から目を離さず、腕は計算式を書き続けながら口だけで返すと
「今年も行かれるんですよね」
腕が止まる。
「アタシも行ってはいけませんか?」
目が机から離れる。
「なん、で」
「挨拶、したいんスよ」
「…いいけど」
もうそこにはいないのにそれでも?
「いますよ」
「…!」
います、とまた繰り返し、泣いてもいないのに目尻をそっと拭われた。
泣いてなんか、ないのに。あの日から。
傘はいらない。
そんなもの役に立たない。
それでもお前は