□フラグ
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世の中には死亡フラグというものがある、と以前自慢気に上司である沖田隊長が話していた。細かいことは覚えてないけど死をにおわせるような台詞、悪い人が急に良い人に変化したりするとフラグは立つんだとか。あ、使い方としては「フラグが立った」、「フラグが立ちそう」などである。

最近隊士の中で噂になっていた。沖田隊長が突然改心したように隊士にお土産と称して団子を配っているというのである。あくまで噂。私自身その現場を目撃したこともなければ信じている訳もない。だってあの隊長だよ。タバスコ入れたりして楽しむ以外にそんなことするのかね。

「これは完璧フラグが立ってますね」
「俺は元から良い奴だから立ってねーよ」

目の前に置かれた様々な種類の団子を見ながらその本人である沖田隊長に問うとあっさり否定された。そして私の推理、というか予想も否定されている。目の前の団子は土産と言って渡されたものなのだ。どうやら噂は本当だったらしい。

「あんまり変なことしないでくださいよ。死亡フラグ2、3本立ってるじゃないですか」
「バーカ。ただでおまえにやる訳ねェだろ」

そう言いお茶をずずりと口にする。ただで、ということは何か下心があるらしい。良かった。それでこそ隊長だ。2、3本立ってたフラグが1本消えた。

「…近藤さんが団子屋寄って来いっつーからでィ」

今度は買って来た団子に手を伸ばす。あれ、近藤さんに頼まれたものなら自分で食べちゃダメだろ。何で渡しに行かないんだこの人。
そんな私の心配をよそに相変わらずの無表情で団子を頬張り続ける。

「隊、長…」

うまく声が出ずに変なところで切れてしまった。それでも聞こえていなかったのか隊長はまた新しい串へと手を伸ばす。そんないつも見ているであろう動作が今はどこか違っていて、それが私の喉をおかしくさせた原因だ。だっていつもの無表情さなのにどこか違和感がある。この人は私の知らない隊長だ。

「あ、あのっ!」
「総悟ォー!団子は…って食べてんじゃん!」

それが嫌で話し掛けると何ともタイミングよく近藤さんが駆けつけてきた。第三者から見ても近藤さんの言い分が正しい。ちょうど今最後の串を食べ終わったところの隊長が悪い。
しらばっくれる様子もなくうまかったと伝えるとみるみるうちに近藤さんが涙ぐむ。大の大人がみっともない。けれどそんな感情をストレートに表出するところが近藤さんの良いところだ。

「私、新しいの買って来ますよ」
「いや、オレが行く。食ってないおまえより、全部食ったオレに責任がありまさァ」

なんと珍しいことか。あの隊長が自分の意志で行くなんて。立ち上がり今にも出掛けそうな隊長にペナルティはありますかと尋ねると手をヒラヒラさせながらいつか団子奢れと約束させられた。よし、新しい死亡フラグはまだ立っていない。その代わりと言っては何だがフラグが立ってしまった。一番立って欲しくなかったフラグ。

「…協力してくれてありがとな」

隊長がいなくなった今、近藤さんが話し掛けているのは私に対してだろう。協力した覚えはないがポツリポツリと話す言葉から耳を離せない。ああ、この時無理矢理にでも耳を離せておけば私は私で居られたのに。フラグが立たなかったのに。

「…総悟のヤツ、団子屋の娘に惚れたみたいでなぁ」

あははと豪快に笑う近藤さんを見たのが最後。どうぞその豪快さでこの2本のフラグをポキリと折ってください。隊長の恋愛フラグと、私の失恋フラグの2本をどうか。
目を開けば涙が零れるのは分かっていたからひとりになるまで目を開かなかった。



フラグ





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