□走れ!ぼうけんの日々
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そうごのお家から帰ってきて何日か経ちました。きらきらきらきら。またわたしの部屋にあるいつもの障子がいつもに増して白く、光っているように見えます。お母さん。寝坊してちょっと遅めに始まった一日だけど、こんな日はまた素敵なことがあると思います。

「おかあさん、きょうはすてきなことをさがしにぼうけんしてきます!」
「あら朝ご飯は?」
「いただきました!」

早いのね、と柔らかく笑うお母さんが見送っていたのに行ってきますとちゃんと言えたか分からないほどに飛び出した。うわあ。今日は障子だけでなく外の景色も全部きらきら輝いている。

ぼうけんに必要なのは戦える武器と宝物を入れる鞄と、力がなくなった時に食べるおにぎり。あ。今日は急いでいたためか鞄に入れたはずのおにぎりがありません。うーん。神社の近くまで来て一瞬引き返そうかと悩んだけれどやめました。こんなすてきな景色が続いているのにもったいない!

そんなすてきな景色を見とれて神社の前に来た途端に揺れる右側の草。こっ、これが敵か…?どんなのが出るだろう。こんどうさんみたいにやさしいゴリラならいいのに。がさっと大きく草が揺れ出てきた小さなかたまり。さあ来い!

「おい、こいつ女のくせに竹刀持ってるぜ!」
「ほんとだ!なっまいきー」
「女なんか弱っちいのにねー」

な、なんだこの敵たちは!?クスリクスリと笑いながらもひどい言葉のオンパレード!前にも別の男の子に言われたのと同じ言葉。女なんか剣を持つな。
なんで女の子は剣を持っちゃいけないんだろう。自分の気持ちに素直に行動することはいけないことだろうか。

「おんなのこがしないもっちゃいけないの?」
「当たり前だろー」
「でもっ、こんどうさんはいいっていったよ?」
「こんどうさん、って誰だよ!」

そしてまた笑い始める男の子達。そういえばこの子達は見たことない。そんな遠くまで来てしまったかと反省すると共に思う。そんな笑い方はきらいだ。

「そうやって、わらわないで!」
「…なんだよ」
「こいつ、やっちまおうぜ!」
「賛成!」

精一杯の抵抗もどうやら通じなかったらしい。ああ、わたしは知らない間に言葉が通じないほど遠くの世界まで来てしまっていたんだ。つらい気持ちを我慢しているといつのまにかニシニシと笑いながら距離を詰め寄られる。気付けばみんな手に竹刀を持っているじゃないか。やっちまえー!と真ん中の男の子が声を荒げる。その反動で目をぎゅうっと閉じた。


…おかしい。いつまで経っても痛みがやってこない。うすく目を開けてみると倒れて山を作っている先ほどの男の子達。

「ったく、その女に竹刀向けるたぁどういうつもりだ‥」

と、黒いおおかみ。



はしれ、はしれ、はしれ!
頭の中で緊急ベルが鳴っている。わたしは風になったみたいに一目散にどうじょうへ走った。どうじょうへ行けばきっとそうごやこんどうさんが助けてくれる!
ああ、それにしてもなんて日だ。お母さん、わたしの勘もまだまだですね。今日はすてきな事で溢れると思ったのに。やな男の子とおおかみという強敵に道を阻まれました。まったくついていない。

いくら走ったか分からないけれどやっと見えてきた愛しのどうじょう。大きな扉を必死に開けるとびっくりしたようなみんなの顔。そんな顔でも安心できました。だってみんなここにいるんだもん。

「たんぽぽっ!なに泣いてんでさァ!」
「…ふ、わあっ」
「泣いてちゃ分かんないよたんぽぽちゃん?」

声を出そうにも涙で声が出ません。みんないつのまにかすぐ傍で背中をさすってくれたり顔を覗き込んだりしてくれている想いに応えなければ。みんな、心配させてごめんなさい。

「ぼ‥ぼうけんにっ、出たら!」
「ぼうけん?」
「おおかみっ!まっくろい、おおかみがいたの!」
「お、狼だってぇえ?」

「なに騒いでんだ?」

みんながざわざわ騒いでいる中ちょっと遅れてこんどうさんが近付いて来る。あ、あのねっ!と話し始めようとしたときだ。いやな気配。とっさにそうごの背中に隠れる。

「ちょうどいいな!今日から道場に通う新人を紹介するぞ!」
「……」
「って喋らんかトシィイイ!!」

ふいっとそっぽを向く黒い着物の。

「‥お」
「お?」
「おおかみぃっ!!」

おー、さっきの。なんてやる気のない声で指をさされる。さっきのって覚えられているんだ。どうしよう、わたしを食べに追い掛けに来たのかな。ふるふる震えていると急になくなったそうごの背中。隠して欲しかったのに、と願うが代わりに太陽みたいなあったかい手が頭に置かれる。これはこんどうさんの手だ。

「たんぽぽちゃん。道場のヤツらみんな好きか?」
「…うん、大好き」
「だろ!俺はさっきなんて挨拶したかな?」
「おおかみさん、は…どうじょうにかようって」
「そうだろ?」

もしかして。わたしの勘はまだまだだけど、ちょっと分かったかもしれない。自信はないけれどこんどうさんやおおかみさんに向かってゆっくり顔をあげる。

「あたらしい、おともだち…?」
「そういう事だ!」

ニカッと眩しい笑顔でまた頭をくしゃくしゃにされる。その後ろにいたおおかみさんにはじめましての挨拶を済ませるとみんなも嬉しいのか順番に声を掛ける。みんなからおおかみさん、おおかみさんと呼ばれていた肩が小刻みに震えると同時に大声をあげられた。

「うっせぇ!俺はっ、土方十四郎だぁ!」











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