本棚T
□『好きまでの時間』
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玄関のチャイムがなる。
「はい。」
「あ、俺、俺。」
「俺ってどちら様?」
「櫻井でーす。…って、つまんないこと言ってないで開けてよ。」
鍵をあけ、チェーンを外す。
「さっき電話したんだからさ、わかるだろ?すっごい雨降ってるし。」
「はい、タオル。」
「サンキュー。あぁ、腹減った~。」
「あのさ、うち、雨宿りや時間潰しのカフェじゃないんですけど?」
「お金払おーか?」
「最悪。」
翔は、いつものソファーに座り、濡れたジャケットを拭いていた。
「オムライスくらいしかできないよ?」
「いいねぇ~。」
「わっホンモノ!吉本荒野だ!」
「喜んでいただき光栄です。」
大袈裟に頭を下げる翔に笑ってしまう。
「というか、相変わらず突然電話しても男の影すらないねぇ。」
「ほっといてよ。でも、彼氏出来たら雨宿りも時間潰しもできないわよ?」
「そっか、俺専用カフェが無くなるのは困るな。」
「…やっぱカフェなんじゃん。」
「あははは。」
翔独特の笑い方、ちょっと吉本荒野っぽいのよね。
「やっぱ彼氏禁止で。」
「えー、さみしいじゃん、私。」
文句を言いながらも、オムライスを翔の前に置く。
「おっ、玉子トロトロだ。」
「…いいねぇ~って言わないの?」
「安売りしないから。」
「意地悪。」
ニヤリと笑いながらも、きちんと手を合わせ「いただきます」と合掌してオムライスを口に運ぶ翔。
その仕草が、いつも綺麗だなって思う。
「あ、そうだ。ホントに彼氏とか、禁止ね。いつか俺が好きだって言うからさ、待っててよ。」
………!?
「それって……。」
「言葉通りの意味。それ以上でも、それ以下でもないから。」
ちらりともこっちを見ず、視線はオムライスと手元におかれた番組の資料…
でも
「……。じゃあ、翔専用カフェは、いつでも開けとくね。」
照れ屋で、こういうことには不器用な翔の、一世一代の告白なんだろうなって。
「お願いします。」
やっと私に視線を移し、ふふっと笑う。
少し耳が赤くなってるのは、見なかったことにしてあげよう。
私も笑顔を返し、珈琲を入れる。
「ねぇ、私はさ、先に言っとくね。」
「ん?何を?」
私の気持ちは出会ってから変わらない。
きっとずっと同じまま。
「翔が、大好きよ。」
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