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□『言ノ葉』
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「アンタさ、いっつも笑ってんのね。」

「いっつも怒ってるよりいいでしょ。」

それが、ニノと初めて交わした会話。

「……そりゃそうだ。」

すこし俯いて、呆れたように笑ったニノに
恋をした瞬間だった――。


って、素敵な恋のハジマリのはずだったのに…。

「ちょっと!代引きとか聞いてないけど?」

「え?あぁ、言ってなかったっけ?」

「言ってません。聞いてません。前回の代引きと合わせてキッチリ払ってよ?」

「あ!俺、誕生日だったんだけどなぁ。」

「……随分前よね、誕生日。それに、プレゼントしたよね?ご丁寧に写真まで添付してきたスニーカー。」

「あ、呼ばれたからスタジオ行かなきゃ。苦情は後で受け付けまーす。」

プツッと切られた携帯。

「なによ…もぅ。」

テーブルに置かれた送られてきたゲームの箱を見つめる。

国民的アイドルが本名でゲーム受け取りって…
そう思って受け取り代行を引き受けてあげていた。
そう、彼女気分ってやつ。

でも、都合のいい女って、
こういうこと言うのかな…。


「なに人のコト珍獣見るような目で見てんだよ。」

「だって…何しに来たの?こんな時間に。」

「何しに来たのって、アナタでしょ?ゲーム代請求してきたの。」

ニノはさらりと言ってのけ、「おじゃましまーす」なんてリビングへ。

「忙しいんじゃないの?」

「忙しいよ。ありがたいことです。……あー、あのさ、あの電話の時、大野さんが隣にいたのよ。」

「え?あぁ、うん。」

「あの人、最近までドラマ撮っててね。」

「うん、知ってる。」

「…身近な人だからこそ、ちゃんと言わなきゃ伝わらないよって。あの人さ、普段ボーッとしてんのにさ、時々、ドキッとするようなこと言うんだよなぁ。」

「…うん。」

「だから、言いに来た。…あのさ、いっつもありがと。…ゲームの受け取りも、部屋の空気の入れ換えも、ご飯つくってくれんのも、全部ありがと。」

いきなりペコリと頭を下げるニノに、驚いて言葉が見つからない。

「………。」

「感謝してんのよ?だからさ、俺と会うときは、いっつも笑っといてよ。」

「…ニノ……。…うん。じゃあさ、笑っとくから…彼女にしてくれる?」

私の言葉に、ニノは、眉間にシワを寄せた。

「えーっと…ずっとそのつもりでしたけど?」

「え?そ、そうなの?」

「うっわぁ〜、信じらんない。空気読んでよ〜。ったく、友達に合鍵渡したりしないでしょうよ。今、ちょっと感動的な流れだったのにさぁ。台無し。」

あーぁ、とソファーに座るニノ。

「え、あっ、だって、何にも言ってくれないし。」

「伝わってなかった?」

「……うん。」

「じゃあ、言葉にしとく?態度にしとく?」

「へ?」

「あれ?アナタそんなに鈍感ちゃんだったっけ?」

面倒くさそうに立ち上がったニノは、

「いっつもさ、俺のために笑っといて下さい。」

そう言って、チュッと小さくキスをした。

「………うん。わかった。」

びっくりしたのと、恥ずかしいのでドキドキと心が跳ねる。

そんな私を見て、
ニヤリと笑ったニノは、サラッと一言。

「あ、明日も代引きくるから。よろしくね。」

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