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□『眠り姫』
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何なんだ、この仕打ち。

通じないスマホにため息をつく。

時計を見ればまだ22時半。
今日こそは…
そう思ってかけたはずなのに、ここ数日、留守電を案内する声だけしか聞いていない。

忙しいのを言い訳にして、
会うことはもちろん、
電話も、メールもおざなりにしていたのは…認める。

「それ、男だな。」

悪びれることなく言い放つ旧友。

「ハッキリ言うねぇ。」

「嵐の櫻井翔にハッキリ言ってくれる奴なんて、そうそういないだろ?」

ドヤ顔の旧友に「ご親切にどうも」と苦笑いを向けておく。


でも、やっぱり…
存在を忘れかけていた合鍵を取りだし、そっとドアを開けた。

案の定、今日も部屋は真っ暗…
俺、マジで捨てられる?
リビングの電気を付け、部屋を見渡す。

ローテーブルには…
俺が表紙の雑誌が数冊。
手に取ろうとした瞬間、少し開いた寝室のドアから小さく息づかいが聞こえた。

まさか……
ドヤ顔の旧友の言葉が頭をよぎる。
嫌な予感を振り切り、意を決してドアを開けると…

「…え?」

スヤスヤとピンクのチャリTを着て眠っている君。
俺の時計は22時を少し過ぎた頃。

「早くね?寝るの。」

思わず口に出た一言で、彼女が目を醒ます。

「………翔…くん?」

「あ、ごめん、起こした?」

「…どうしたの?」

ポワンとした顔で、ベッドに座る君に
呆れた気持ちと不安だった気持ちと…
とにかく色々入り交じった感情が口をつく。

「お前さぁ、なんで寝てんの?意味わかんないんだけど。まさかずっとこの時間には寝てるから電話に出られないとか?いまどき小学生でもまだ起きてるぞ?」

「…もぅ、そんなに一気に喋らないでよ。」

「あ…ごめん…。」

「22時から1時の間に寝てると肌にいいって雑誌に書いてたの。」

「……へ?それで、寝てたの?」

「だって翔くん忙しいから構ってくれないし、暇だもん。」

「暇なら寝るのかよ?お前は智くんか。」

「あっ!大野さんのチャリT着てるから眠たくなるのかしら。」

「…そんな効果はないだろ…。」

真面目な顔をして突拍子もないことを言い出す君に、呆れてため息ひとつ。

「俺の心労どうしてくれるだよ、ったく。」

「心配、してくれたの?……それなら、ごめんなさい。」

ベッドの上でちょこんと正座をして、頭を下げる君をギュッと抱き締める。

「ごめんは……俺。」

ほったらかしにし過ぎた君に、お詫びのキス。

「…お前の日課崩して悪いけどさ、今夜は、寝かせないから。」

捨てられるかも?なんて不安になったヘタレな俺は封印し、ちょっと、格好つけさせてな。


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